YOMIURI ONLINE
現在位置は
です

企画・連載

本文です
ネット社会・深まる闇

海外リポート 各国の現状と取り組み

 世界のインターネット人口は約12億人(2006年、国際電気通信連合調べ)に上り、この10年で15倍に拡大した。国境を越えて情報が飛び交う「ボーダーレス」化が進む中、ネット社会のひずみは海外でも顕在化している。各国の現状と取り組みを紹介する。

韓国 「実名制」効果は未知数

写真の拡大
ソウルのインターネットカフェで、オンラインゲームに興じる学生たち。韓国はネットの高普及率を誇る(AP)

 一般市民から芸能人まで巻き込み、インターネット上での個人攻撃や中傷で自殺者が出るなどの事例が相次いだ韓国は2007年7月、関連法を改正し、掲示板に書き込んだ人物を特定できる「制限的本人確認制」(インターネット実名制)を導入した。同時に、悪意の書き込みなどの被害通報があった場合、サイト運営者の判断で情報への接続を一時的に遮断できるようにした。

 制度導入の背景となった事件は枚挙にいとまがない。情報産業省の説明資料などによると、05年6月、地下鉄の車両内に連れてきた飼い犬のフンを始末せず下車した女性の動画が公開されると、女性の身元が突き止められ、個人情報が瞬く間にネットで拡散。女性に対し、「無知で恥知らず。常識の足りない女」などと激しい非難が浴びせられた。

 07年1〜2月には、女性人気歌手とタレントが相次いで自殺。原因は特定されていないが、整形手術や家族に関する中傷など、膨大な悪意の書き込みが影響したとみられている。このほか、韓国で人気の「ゲーム解説者」の批評に不満を持った人物が、この解説者の子供を殺害すると脅迫。また、失恋で自殺した女性の交際相手とされる男性の個人情報がネットで公開され、男性は会社を辞め、逃避生活を強いられた例もあった。

 「実名制」では、利用者はネット接続契約や書き込みサイトへの登録の際、全国民に割り当てられた住民登録番号や氏名の提示を求められる。本人確認は専門の第三者機関が行い、他人になりすました登録は不可能とされる。だが、実際の書き込み時には、ニックネームやIDを使用でき、「匿名性」が保たれるため、抑止効果には限界がある。

 最近では、活動を休止していた国民的男性歌手をめぐり、人妻との不倫や「日本の暴力団の恋人(芸能人)に手を出し、体の一部を切除された」などという根拠のない情報がネット上で拡散。ネットを通じ、男性歌手の消息や居場所追跡が社会現象になった。本人は1月末に記者会見し、「(名前を出された人たちが)精神的に弱ければ自殺しているだろう」とデマ流布を厳しく批判した。

 漢陽大学の安東根(アンドングン)教授(新聞放送学)は、現状の制度だけで逸脱行為を完全に防ぐのは不可能だと指摘。一方で、「自動車の運転と同じで、ナンバープレート(ニックネーム)をつけて動けるが、『事故』が起きれば追跡でき、過ちがあれば責任を問われる。これを利用者により広く周知させていけば、効果が表れるだろう」と話している。(ソウル 竹腰雅彦)

英国 学生の丸写し横行

 英国の教育界で、学校の入学願書や試験のリポートにインターネットのホームページ上から文書をコピーして張り付ける「コピー・アンド・ペースト」(コピペ)が問題化している。政府や、名門オックスフォード、ケンブリッジ両大学などが対策に本腰を入れ始めた。

 「8歳の誕生日にもらった化学の実験セットで遊んでいたら、パジャマに穴を開けてしまいました。私はそれがきっかけで、科学に強い関心を持ちました」

 複数の大学医学部への入学願書に書かれた志望理由だ。英国では願書は合否を左右するほどの重みを持つが、こんな体験談を理由に記した生徒が234人いたことが明らかになった。ネット上に同様の文章が見つかったため、これを取り込んだ可能性が浮上、大学関係者に衝撃を与えた。

 07年の報道によれば、中部のコベントリー大ではリポート提出などで237人の学生にネット情報盗用などの不正が見つかり、悪質な7人が退学、12人が停学となった。中等学校などのカリキュラムを作成する「資格履修課程当局(QCA)」によると、中等学校以下でも盗用経験がある生徒は07年、1301人に上った。

 問題の背景として指摘されるのが、若者の約9割が自宅でネットに接続できるといわれるネット利用者の増加だ。さらに、中等学校や大学で導入されている演習(コースワーク)制度も影響している。演習の多くは校外で数日間かけて行うリポートの作成で、中等教育修了試験(GCSE)などで採点対象の一部となるため、ネット情報がコピーされる例が相次いでいる。(ロンドン 本間圭一)

米国 子供の性犯罪被害対策 SNS利用を規制

 米国では、「マイスペース」などインターネット上で会員同士が交流できるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用する子供が性犯罪の被害に遭う事件が多発し、当局などが対策に乗り出している。

 SNSへの登録の際、不用意に詳細な個人情報を公開してしまう子供が少なくなく、性犯罪者が同年代の子供になりすまして近づく手口が目立つ。

 カリフォルニア州では2007年、19歳の美大生になりすました男(34)が、SNS上で知り合った14歳の少女に、デッサンの授業で使うと称し、裸の写真を送らせたとして逮捕された。02年には13歳の少女が、同い年の少女になりすました男(38)に自宅から連れ去られ、捜査当局に救出される事件も起きた。

 最大手のマイスペースは今年1月、49州の司法長官らと協力し、安全対策を強化すると発表した。子供に利用させたくない親はマイスペースに子供のメールアドレスを届けることができるほか、不適切な書き込みの通報を受ければ、運営者側の判断で72時間以内に削除する。子供の安全対策が目的だけに、表現の自由の侵害を問題視する声は上がっていないようだ。

 また、ニューヨーク州は1月、州内約2万5000人の性犯罪者にメールアドレスの提出を求め、SNS利用の規制に乗り出した。

 一方、SNS上では中傷を受けた子供が自殺する事例も出ている。これを受け、ミズーリ州ダルデンヌ・プレーリー市は07年11月、ネット上での嫌がらせ行為に90日の服役や罰金500ドルの罰則を盛り込んだ条例を制定した。

 同州のケースでは06年、13歳の少女がマイスペース上で知り合った「少年」から中傷され、自殺した。実際の少年は、自分の娘と少女のけんかを恨んだ近所の女がなりすましていたことが発覚した。女が演じた少年は、少女が夢中になると、少女のメールを他人に転送した上、「おまえは悪いやつだ。みんなが嫌っている。おまえがいなければ、この世はもっとよくなる」と中傷を繰り返した。

 ネットと子供をめぐる問題に詳しい弁護士パリー・アフタブさんは、SNS各社の対策について、「メール自体を規制しようとしても、匿名でフリーメールを取得でき、年齢を検証する方法もない。広大なネット上を監視することは不可能だ」と技術的に限界があると指摘。道で知らない人について行ってはいけない、と教えるのと同様、親や地域が「ネットで不適切なことをすれば狙われるということを子供に教える必要がある」と訴えている。(ワシントン 宮崎健雄)

独 子供の性犯罪被害対策 「おとり」であぶり出し

 ドイツでもインターネット上のチャット(文章による会話)で知り合った大人から性的被害を受ける子供が後を絶たない。

 同国の有害サイト監視団体「ネットキッズ」の調査によると、日常的にチャットを使う子供の90%が性的な話をしつこくされたり、ポルノ画像を送られたりしたことがあるという。

 ネットキッズ代表のベアテ・クラフトシェニンクさん(42)はジャーナリストで1児の母。取材を通して有害サイトへの危機意識を強め、「ネット上の児童保護」を旗印に2001年、同団体を設立。以来、10歳代前半の少女のふりをしてチャットに入る「おとり捜査」により、性的目的で子供に近づく大人の多いサイトをあぶり出し、団体のホームページ上のブラックリストに公表する取り組みを続けている。

 アイドル歌手好きの13歳「リサ」と名乗ったときも、すぐに「まだ処女?」などと問いかけを受けた。裸の男の画像が送られ、「300ユーロ(約4万8000円)あげるから家に来て」と誘われたこともある。

 いわゆる出会い系サイトだけでなく、一見無害な子供専用チャットルームにも多くの大人が訪れる。子供を狙う者にとって、子供の個人情報や写真が多く載ったサイトは理想的な環境だからだ。ネットキッズがブラックリストに載せた中には、国内全16州の州少年省が創設した非営利組織(NPO)「少年保護ネット」から「子供にも安全」とのお墨付きを得ていたサイトもあった。

 04年の刑法改正で、こうしたネット上の被害も念頭に、性的行為を目的として子供にポルノ画像や録音、文書を送りつけた場合、5年以下の禁固刑に処せられるようになった。

 しかし、取り締まり側の「人手不足」(独警察官労組)もあり、十分な成果は上がっていないのが現状だ。

 ベアテさんはこれまでの活動を踏まえ、有害サイトへの接続を制限するフィルタリングサービスでは子供たちを守れないと痛感。12歳未満のネット利用を禁止し、精神的に不安定な思春期を終える15、16歳までは1人でネットを使わせないよう保護者に提言している。「親の目をかいくぐって使うかもしれないが、ブレーキはかかるはず」と、保護者の役割の重要性を強調している。

(ベルリン 中谷和義)

 「ネット社会」深まる闇のシリーズは、取材班の次のメンバーが担当しました。

 編集委員・安部順一、社会部・梅崎隆明、吉原淳、中沢直紀、田中健一郎、大阪社会部・山本慶史、地方部・谷口透、渡辺亮、桑原有樹、杉原洋嗣、加地永治、生活情報部・高橋直彦、小坂佳子、岩浅憲史、政治部・田中隆之、大田健吾、白石洋一、松永喜代文、国際部・中津幸久、関泰晴、経済部・河野越男、ワシントン・宮崎健雄、ニューヨーク・池松洋、ロンドン・本間圭一、ベルリン・中谷和義、ソウル・竹腰雅彦、写真部・平博之、田中成浩

 ◆連載「ネット社会」へのご意見をお寄せください。投稿はこちら

2008年3月7日  読売新聞)
現在位置は
です