広く一般に浸透する一方で
寡占化の進む検索エンジン界
膨大な情報があふれるインターネットにおいて、いまや検索エンジンは欠くことのできない存在だ。最近のテレビCMを見ていても、「詳しくは『○○○』で検索!」と検索キーワードを強調するものが増えたように思う。視聴者に覚えづらいURLを伝えるよりも、商品名や特徴を表すキーワードを示すほうが効果的なのだろう。それだけ検索エンジンの存在が一般に浸透したことのあかしでもある。
あまたある検索エンジンの中で、「検索エンジン界の雄」として君臨するのがGoogleだ。高速で質の高い(有益な情報を見つけやすい)検索エンジンとして、ユーザー数を拡大し続けている。ネットレイティングスが2006年10月に発表した資料によると、国内における2006年9月度のGoogle利用者は1,738万人で、2005年9月度(1,212万人)からの1年間で43%もの伸びを示した。利用者数ではYahoo!の3,850万人に遠く及ばないものの、成長スピードは圧倒的といえる(同期間のYahoo!利用者数の伸びは14%)。ネットコミュニティにおいても、いまや「質問する前にググれ(Googleで検索してこい)!」というのが常識だ。
検索エンジンは広告収入をベースとしたビジネスモデルであるため、多くのユーザーを集めることで、多くの資本がそこに集中し、さらに多くのユーザーを集めることができるようになる。他方、ユーザーを集められなければ淘汰され、消え去る運命となる。事実、現在実質的に生き残っている検索エンジンはGoogleやYahoo!、MSNなど、どれも巨大なものばかりだ。こうして、検索エンジン業界はすでに寡占状態になりつつあるのである。
「Google八分」に見る
検索エンジンの寡占の問題点
検索エンジンは、インターネットという広大な情報の海を渡るための「羅針盤」の役割を担う。当然だれもが、その検索結果は客観的に見て公正であるべきと考えるはずだ。だが、運営する企業の方針しだいでは、ときとして「不公正」と思われる事例も浮かび上がってくる。
例えば「Google八分(はちぶ)」と呼ばれる現象がある。これは、Googleの運営者によって検索結果に手が加えられ、本来検索にヒットすべきWebページがヒットしなくなる(あるいは表示順位が不当に下げられる)ことを指す。
そもそもGoogleでは、不正な方法で検索結果の表示順位を上げる「検索エンジンスパム」を実施しているサイトを検索結果から除外するようになっている。だが、「Google八分」の場合は事情が異なる。検索エンジンスパムのように、あらかじめ明示されたガイドラインに違反する内容でないにもかかわらず、ある日突然、そのページが検索結果から姿を消してしまうのだ。一応、検索結果のページには削除措置が採られた旨が表示されるのだが、明確な削除基準や詳しい削除理由の説明はない。
Googleをはじめ、検索エンジンを運営するのは一私企業にすぎない。そのため、検索エンジンとしての公正さよりも自社の利益保護を優先してしまい、圧力に対して弱腰の対応をしてしまうことが多いのが実情だ。例えば、ある企業から弁護士を通じて「御社の検索エンジンで我が社の営業活動を妨害するサイトがヒットする。このままにしておくならば御社への法的措置も検討する」と通告されたり、ある政府から「我が国で検索サービスを提供したいならば、反政府活動を行うグループのサイトをヒットさせないようにしてくれ」という圧力がかかったりしたときに、検索結果からそうしたサイトが除外されていく。
問題なのは、こうした措置がユーザー不在で行われてしまうという点だ。「ある企業」や「ある政府」にとって都合が悪いという理由だけで、一般ユーザーの知らないところで恣意(しい)的に、検索結果から情報が抹消されていく。検索エンジンを信頼しきっているユーザーならば、こうした措置が行われていることにすら気づかないはずだ。Google以外の検索エンジンでも同様の措置が行われている可能性はあるが、ユーザーがその実状を知るすべはない。
寡占の問題点はほかにもある。検索エンジンに集積される膨大な個人情報の取り扱いの問題だ。
検索エンジンのサイトには、入力された検索キーワードだけでなく、検索日時、検索元IPアドレスといったデータも蓄積される。1つ1つの情報はささいなものかもしれないが、これが集まると個人の行動や嗜好が丸裸にされてしまうおそれがある。例えば、あるユーザーが7月1日に飛行機の予約サイトを検索し、7月10日に沖縄のホテルを検索、そしてそれまで毎日検索していたユーザーの利用頻度が7月20日から25日の間にがくっと下がったら…。何となく、夏休みに沖縄旅行に行ったことが推測できる。
最近はごく普通のユーザーでも、インターネット上で不用意に個人情報をさらすことの危険性は認識している。だが、さすがに日々入力する検索キーワードにまでは気が回っていないのではないだろうか。現状でそうしたデータが「悪用」されているとまでは言わないが、表示する広告の選択などには利用されている。寡占化が進めばその危険性が高まるということは考えておくべきだろう。
「公共性」をキーワードする
新たな検索エンジンの胎動
検索エンジンを私企業のサービスではなく「公共のデータベース」と位置づけ、GoogleやYahoo!などに対抗する検索エンジンを構築しようとする動きも出てきている。例えば、フランス政府はおよそ2,800億円の予算をかけて「Quaero(クエロ)」という検索エンジンを開発中だという。同様に、日本でも経産省の情報大航海プロジェクトが「日の丸検索エンジン」の開発にとりかかっている。
こうした国家/政府レベルでの取り組みの一方で、フリー百科事典の「ウィキペディア」創始者のジミー・ウェールズ氏が新たな検索エンジンを開発中であることを発表した。ウェールズ氏の指向する検索エンジンは、既存の検索エンジンの「秘密主義」とは真っ向から対立するものだ。オープンソースのソフトウェアを利用し、多くの人が開発に参加する「透明性や公共性の高い検索エンジン」を目標にしているという。
ご存じのとおり、ウィキペディアはだれもが執筆・閲覧できるインターネット上の大規模な百科事典だ。現在125言語に対応しており、客観的に見て「かなり使える百科事典」である。当初は「記事の質が低い」「文責の所在が明らかでない」といった問題点を指摘されもしたが、すでにそういう段階は乗り越え、ユーザー参加型データベースとしては最高の出来具合になっていると思う。
ウィキペディアを運営するウィキペディア財団と、新しい検索エンジンとは関係ないとのことだが、きっと基本的なコンセプトは似たものになるだろう。その発想の源にある「公共性」は、今まで光の当たらなかった場所を照らす光源となるに違いない。最初はロウソクのようなささやかな光でも、いずれ大きく育ってくれたら…と願わずにいられない。
NETWORKWORLD 6月号(2007年4月18日発売)掲載
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