ネットの片隅でせっせと
広告活動する人たち
昨年、世間を騒がせた経済事件に、「近未来通信」という企業を巡る大掛かりな詐欺事件があった。同社は「高配当の見込めるIP電話局オーナーを募集」とうたい、約3,000人の投資家から資金をかき集めたあげく、突如事業を停止した。被害額は約400億円と言われているが、代表者は事件発覚の直前に海外逃亡しており、資金回収の見込みは立っていないようだ。
この事件のカラクリは単純で、「大きな収益を生む」と説明されていたIP電話事業が、実際にはほとんど実体がなく、投資家に支払われる配当金には新たに加入した別の投資家の出資金が回されていた。つまり、いつかは必ず行き詰る自転車操業ビジネスを行っていたわけだ。
これだけ大規模な詐欺が実現してしまった背景には、「IP電話」という何となく将来性を感じさせるキーワードと、有名タレントを起用した派手な広告活動があった。投資家も「うまい話には裏がある」ことくらいはわかっていただろうが、全国紙やTVで大々的に広告を打てるくらいのちゃんとした会社ならば…という信頼感で、判断を狂わせてしまったのである。まっとうな企業にとっては迷惑な話だが、いかがわしい“グレーな”(または真っ黒な)商売をするやからにとっても、広告活動は重要なのだ。
ただ、新聞やTVなどで大規模な広告を打つにはかなりの資金が必要となる。そこで、小ぢんまりと灰色商売をやっているような“零細事業者”は、インターネットを使って金のかからない広告活動に励むことになる。それがスパムメールやブログのコメントスパムであり、多数の掲示板へのスパム投稿であり、SNSでの「無差別足あと広告」なのである。ちなみに足あと広告とは、多数のユーザーの訪問者履歴(mixiでは「足あと機能」と呼ばれている)に自分の履歴を残し、それが気になったユーザーが自分の広告ページを訪れるように仕向けるテクニックだ。
彼らは、広告コストをかけずに何とか金もうけしようと涙ぐましいほどの努力をしているわけだが、そんなに努力できるのならまっとうな商売でも成果が上がるだろうに…と皮肉に思うのは筆者だけではあるまい。
あちこちに貼られる
「金もうけ」スパムの正体
スパムメールは出会い系サイトの勧誘が大半を占めるが、ブログコメントや掲示板に書き込まれるスパム広告、SNSにおける足あと広告にはなぜか「金もうけの匂い」がつきまとう。「ネットでラクしてもうける」とか「サイドビジネスで億万長者に」とか、そういったたぐいの広告だ。
こうしたリンクをたどると、多くは「情報商材」と呼ばれる商品の販売サイトに行き着く。情報商材とは、「オークションで1カ月96万円を稼ぐコツ」「コンピュータが自動的に週12万円を稼ぐ」「100%勝てる株式投資理論」といったタイトルで販売される情報(大抵はワープロ打ちのテキスト)のことだ。情報商材はネットオークションにも数多く「出品」されており、大半が金もうけにからむ内容で、販売価格は数千〜数万円といったところである。商材自体は単なるテキストなのでネット上に流出してもよさそうなものだが、そうしたケースは大変少ない。販売側からすれば、物理的なモノではないので売れれば売れただけ利益になる。
そもそもそんなにうまいもうけ話があるのなら、他人に教えたりせず自分ひとりでこっそり実行するはずである。したがって、この手の話はリアル社会では一笑に付されるのがオチだが、前述のとおりネット社会では金をかけずに広告ができる。大量にスパム広告を打てば、そのうちリンクをクリックして購入してくれる人も現れるというわけだ。さらに、冒頭で紹介した事件でも見られたように、まだまだ人は「ラクしてもうけるうまい話」に弱い。
「ラクしてもうける方法」
情報商材のすごい中身とは?
情報商材の重要なポイントは、具体的な内容については「購入するまでわからない」という点だ。そして、もうけ話にワクワクしながら情報商材を購入してみても、肝心の内容は大抵お粗末なものである。例えば「ネットオークションで100%稼げる方法」という情報商材を購入すると、そこには「粗大ゴミの日に早起きして使えそうなものを回収する」「100円ショップで仕入れたものを売ってみよう」「家中の不要な物を探す」といった、だれでも思いつくような「方法」が堂々と書かれていたりする。「参考になるWebサイト」と称して、著名な(誰でも知っている)サイトのURLがずらずらと列挙されているようなものも定番だ。
買った側はこんなアホなテキストに何万円も払ったことをくやむが、商品の性格上、一度購入したら返品はできない。たしかに、書いてあるとおりに実行すれば「(大変だが)100%稼げる」のは事実だし、商材の価格が法外かどうかも一概には言えず、クレームを付けるのは難しい。
昔の見世物小屋にまつわる笑い話で、看板におどろおどろしく「おおいたち」と書いてあるので入ってみたら「大きな板」に「血」を塗ったものがあった、なんてのがあるが、まさにその手のギミックを思い起こさせる。「だまされるほうが悪い」商売のリバイバル版と言えるだろう。
どこまでも不透明な
情報商材ビジネスの世界
最近では、情報商材を販売する人のことを「情報起業家」などと呼ぶらしい。情報商材の中には一定額を払えば転売権を得られるものもあるので、その気があればすぐに「起業」できる。そうした情報起業家のブログには「私は1カ月間で○○万円もうけました」「数千万円の黒字を達成!」といった景気のいい話が並ぶ。もっとも、事実を確認しようがないだけに、信じるかどうかは読者しだいだ。だまされた商材購入者が「情報起業家」となり、同じ商材を別のだれかに売りつけようと躍起になっているだけかもしれない。事実、こうした「ウソ」や前述のようなスパム広告を推奨する内容の情報商材すらある。
また、「情報商材を辛口評価する」と称するサイトも目立つ。実際に購入した情報商材を「オススメ度」で分類して、簡単に紹介するものが主だ。だが、実際はこうしたサイトも商材のアフィリエイト広告となっており、商材が売れれば評価サイト運営者がもうかる仕組みなので、信ぴょう性には大きな疑問が残る。
商材の販売網の広がり方は「ねずみ講」と似ているが、ネット上で展開されるため、販売網の全体像を把握するのは難しい。違法かどうかはケースバイケースだが、少なくともトラブルが発生した場合、解決にはかなりの困難が伴うことは覚えておこう。
情報商材のごく一部には、本当に役立つビジネス情報を載せたまっとうなものもある、らしい。ただ、大半は役に立たない情報を販売する灰色商売であり、まともな情報商材を探すのは砂漠に埋もれた宝石を探すようなもの。“一攫千金”にも“マメな努力”にも興味のない筆者などは、まったく食指が動かされないのだが…。
NETWORKWORLD 10月号(2007年8月18日発売)掲載
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