「ネットに客をとられた」は
ほんとうだろうか?
年々、テレビが面白くなくなってきているように思う。
わが家でも最近は、ニュースと天気予報、それにタイガースのナイター中継(筆者は関西人だ)くらいしかテレビを見ていない。各テレビ局は19時から21時くらいのゴールデンタイムに合わせ、主力となるドラマやバラエティ番組を放送しているのだが、わが家の中学生と高校生の子供たちはその時間帯にもテレビなど見ず、自室のPCで遊んでいる。これはわが家に限ったことではないようで、実際ネット上でも「テレビがつまらない」という意見は多い。
あるネットニュースが、複数の現役テレビ関係者に「テレビがつまらなくなった理由」をたずねている(http://news.ameba.jp/2007/07/6103.php)。あるベテラン構成作家はその理由として、現在の番組が構成のゆるい「撮りっぱなし」のものになってしまっていることをあげている。昔のテレビ番組はきちんと脚本が構成されていて、番組を見終えた視聴者はしっかり満足感を得られていた、という意見だ。
一方、インターネットの影響を指摘する声もある。インタビューに答えた広告代理店社員は、番組スポンサーがネットによって悪評が増幅することを気にしているために、テレビ局が極力「当たり障りのない」番組づくりに流れてしまっていると語る。いまや、テレビ番組のちょっとしたいきすぎがネット上で騒ぎとなり、番組やタレントのブログ・掲示板が炎上するというのも見慣れた光景だ。企業イメージに敏感なスポンサーならばそうした「悪評」が立たないような番組を強く望むだろうし、スポンサーの顔色に敏感なテレビ局ならばより無難な番組を作るだろう。
もっとも、「ネットがなければもっと面白いものが作れるのに…」というのは、単なる作り手側の言い訳にすぎないだろう。このニュースのコメント欄に書き込まれているネットユーザーの声を見ても、現在の番組づくりが安易なほうへと流されていることを批判する意見がほとんどであって、「ネットがあるからテレビはもういらない」という意見は意外に少ない。最近よく言われるような、「テレビはネットにお客さんを取られた」というのは、少なくとも現段階においては事実とは言いがたいようだ。
テレビに対する「信頼感」を
突き崩したインターネット
それでも、誤解を覚悟で言えば、「テレビの敵はネット」という解釈は、ある一面では正しい。
かつて――といってもほんの10数年ほど前までだが――テレビのニュースは庶民にとって「神」のような存在だった。テレビ局とは絶対的に信頼できる報道機関であり、そこから与えられるニュースは皆が「正しいもの」と受け止めていた。ニュース以外の番組についても同様であり、社会的な影響力があまりに大きかったため、番組の是非そのものを語れるのは、よほど下品であったり、食品を粗末に扱ったりする反社会的な番組に対してPTAなどが言う苦情に限られていた。
しかし近年、マスコミ全体に対する警戒感や不信感が強まった。番組内容のねつ造が相次いで発覚したことはもちろんだが、そればかりでなく、ネットの普及も大きな影響を与えている。例えばニュースひとつとってみても、テレビが視聴者に「与える」公式のニュースとは違った情報がネットを通じて伝えられることにより、公式情報はあくまで一面的なものである(必ずしもそれだけが正しいわけではない)ということが知れ渡る。
さらにインターネットでは、テレビでは放送されないようなニッチな情報や、“裏側”の情報も手に入れることができる。画一的なマスコミ情報と比べて、ネット上では多方面からの情報を集めることが可能で、ユーザーにとっては魅力的だ。このようにして、インターネットの普及はテレビに対する信頼感を失わせ、テレビを「神」の座から引きずりおろしたのである。
インターネットの登場によって「化けの皮」がはがされ、信仰者が減った今、テレビは存亡のときを迎えている。これまで「おじいちゃん、おばあちゃん」の世代だけは安定して取り込めていたが、いわゆる「団塊の世代」以下のテレビに対する信仰心は薄れ始めているように思われる。団塊の世代が次々とリタイアしていく今後10年の間に、テレビというメディアのほんとうの危機はやってくるだろう。
ネットに必要とされている
正確な「視聴率」の仕組み
こうした動向を切実な思いで見つめているのが広告業界だ。ご存じのとおり、民放テレビにはスポンサー企業からばく大な広告費(トータルで2兆円規模だそうだ)が支払われている。テレビが求心力を失えば、この広告費が目減りしていくのは明らかだろう。日本の広告業は4大メディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)を中心に展開されてきたが、この数年でネット広告が急成長を続けており、すでにラジオや雑誌はネット広告の規模に追い抜かれている。
さて、こうしたネット広告の急成長の裏側で、個々のWebサイトの「広告価値」をどう計測するかについてはまだ試行錯誤が続いている。雑誌や新聞ならば発行部数、テレビでは視聴率という、客観的でわかりやすいものさし(指標)があるが、Webサイトの場合、そのものさしはさほど単純ではない。
Webサイトの人気度を調べるために、これまではヒット数やページビュー(PV)、訪問ユーザー数といった指標が用いられてきたが、最近はそれに「利用時間の長さ」も加味されるようになっている。この変更について、調査会社は、ページ移動の少ない(つまりPVがあまりカウントされない)AjaxやFlashを多用したサイトが増えていることなどが理由としている。
利用時間という指標で見ると、これまでの人気サイトのランキングは大きく変化することになる。例えば、ネットレイティングスが7月に発表した利用時間に基づくドメインランキングによると、PVで見た場合に10位のYouTubeが利用時間では4位に、PVで10位の2ちゃんねるが利用時間では6位に、それぞれランキングされている。逆に、PVで4位のGoogleは、利用時間で見ると12位にすぎない。
ただし、利用時間がそのままサイトの広告価値に比例するかどうかは、正直難しいところだろう。Googleのようなスタイルのサイトでは利用時間が短くなるのが当然だし、ページ上で広告がどのように表示されるのか、ページのコンテンツと広告に関連があるのかないのかといった要素によっても広告効果は大きく変わるからだ。さらに、タブブラウザを使い、裏のタブでページを開きっぱなしにしていた場合も利用時間にカウントするのかどうかなど、測定方法そのものについてもブラッシュアップが必要だろう。
ネット広告に対しては、調査会社側でもより客観的で正確な指標を提供すべく模索を続けているが、頻繁に測定方法が変更されれば顧客に混乱を招くこともある(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/26/news068.html)。いずれにせよ、今後「ネットの視聴率」が洗練されたものに改良されていかなければ、テレビに代わる広告メディアとはなりえないのではないだろうか。
NETWORKWORLD11月号(2007年9月18日発売)
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