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政策推進の枠組みづくりを 「ねじれ」が生む政治の停滞

 ◆意思決定ができぬ国家

 今日の日本政治の停滞は深刻だ。

 国際社会で、日本として相応の責任を果たすには何をなすべきか。少子高齢化が進む人口減社会にあって、いかにして活力のある国を築いていくのか。北朝鮮の核開発、中国の軍事大国化など悪化するアジアの安保環境の下、日本として平和と安全をどう確保するのか――。

 政治はこれら内外の課題の解決に道筋を示し、具体的な施策を着実に実行していかなければならない。

 しかし、衆院では与党、参院では野党が多数を占める国会の「ねじれ状況」が、国としてなすべき意思決定を困難にしている。

 例えば、インド洋での海上自衛隊艦船による給油活動再開のための新テロ対策特別措置法案の成立が、年明けにずれ込んだ問題である。

 法案成立後、2月には活動再開の見通しとはいえ、「テロとの戦い」から一時的に離脱したことは、国際社会に失望感を与えた。何よりも、国際社会の一員として、責任ある行動をとるための意思決定が容易にできない国家であることを露呈した。

 こうした事態が重なれば、国際社会の信頼を損ない、日本の対外的な発言力は低下するだろう。

 通常国会は、租税特別措置法改正案など国民生活にかかわる問題をめぐって紛糾するのは確実だ。

 民主党は、道路特定財源である揮発油(ガソリン)税などの暫定税率を維持する政府案を否決する方針だ。

 3月末で暫定税率の期限が切れると、ガソリン価格は下がるが、国や地方自治体の予算に約2・6兆円の穴が開く。期限切れ後に法案が成立すればガソリン価格は元に戻る。そんなことになれば、国民生活や地方行政は大混乱に陥る。

 憲法は、衆院で可決し参院に送られた法案は、参院で否決されるか、参院送付後60日以内に採決されなければ、否決と見なし、衆院の3分の2以上の多数で再可決できると定めている。

 ◆政権能力試される民主

 自民、公明の両与党は新テロ法案同様、租税特措法改正案でも、民主党が反対を貫くなら、粛々と再可決すべきだ。暫定税率の期限切れによる混迷を回避するには、改正案の提出を急ぎ、早期に衆院通過を図る必要がある。

 同意人事の問題もある。現在、同意人事案件では、衆院の再可決の道が封じられている。民主党は、3月に任期満了となる日銀総裁の有力候補とされる官僚OBの起用に反対する構えだ。民主党の対応によっては、日本の金融政策を司(つかさど)る重要ポストが空席になりかねない。

 そうなれば、米国の低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」問題や原油高などの影響で不透明感が漂う日本経済の運営に混乱が生じる恐れもある。

 民主党は参院第1党という責任ある立場だ。政権政党をめざすなら、国会での不毛な対決は避け、国益や国民生活にかかわる政策について、与党との協議を通じて合意形成を図っていくべきだ。

 福田首相と小沢民主党代表は、昨秋の党首会談で、「大連立」政権をめざすことで基本的には一致した。重要政策を推進していくための安定した政治システムの構築が必要との判断からだった。

 国家としての意思決定ができない状況を放置しては政治の責任が果たせない。主要政党の指導者として、そうした強い危機感を共有するのは当然のことだ。

 社会保障制度改革やその財源としての消費税率引き上げ、自衛隊海外派遣の恒久法制定などは、自民、民主両党が等しく取り組まなければならない問題だ。

 政府・与党は、2008年度の消費税率引き上げを見送っている。その必要性は認めつつも、ねじれ国会で身動きがとれないことが最大の要因だろう。

 民主党は、党税制改革大綱で、消費税の社会保障目的税化を提唱したが、税率は当面据え置き、引き上げは社会保障制度の抜本改革を前提に「国民の審判を受け、具体化する」としているだけだ。

 2大政党が消費税率引き上げ問題をはじめとする税財政、社会保障、外交・安全保障など喫緊の課題に向き合わず、問題を先送りすれば、ツケはすべて国民に回る。

 ◆「連立」の追求が必要だ

 現在の衆院議員の任期は、2009年9月までだ。すでに解散・総選挙が各政党の視野に入っている。

 衆参両院で議決が異なる場合の“決裁手段”としての「3分の2以上」の議席を有する自民、公明の両与党は、当面、解散を急がねばならない理由は乏しい。直面する数々の懸案を考えれば、解散によって政治空白を招いてはなるまい。

 しかし、いつ解散があってもおかしくない局面になりつつある。その解散・総選挙で与党が勝利しても、3分の2以上の議席をとることは極めて困難だ。

 一方、民主党が過半数をとれば、現在のねじれ状況は解消する。だが、現有議席を倍増したとしても過半数には届かない。小沢代表も、単独過半数は「非常に厳しい」と認めている。

 結局、衆院選によっても、ねじれ状況が解消される可能性はほとんどない。それに加え再可決もできなくなる、という最悪の事態が予想される。

 それでは、政治の停滞がさらに深刻化するばかりだ。その時は必ず、新たな連立を模索する動きが出るだろう。

 政治の停滞と混迷が続けば、国民生活の安定も、国際社会における日本の地位も危うい。必要な政策を推進できる政治体制の構築こそ、今の政治に課せられた最大の課題である。

2008年1月8日  読売新聞)
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