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多極化世界への変動に備えよ 外交力に必要な国内体制の再構築

 ◆唯一の超大国の揺らぎ

 どうやら、今、わたしたちは、世界の構造的変動のただ中にいるようだ。

 「唯一の超大国」とされてきた米国の地位が揺らぎ、多極化世界へのトレンドが、次第にくっきりしてきた。

 米国の揺らぎは、イラク戦争の不手際が招いた信頼感の減退によるものだけではない。より本質的な要因として、長らく世界の基軸通貨として君臨してきたドルの威信低下がある。

 欧州の単一通貨ユーロが着実に力を伸ばし、第2の基軸通貨としての地歩を築いている。原油高騰で巨額の金融資産を積み上げている中東産油国や外貨準備世界一の中国などは、その一部を徐々にドルからユーロへと移し始めた。

 やはり原油収入で潤うロシアは、国際政治上での「大国」復活を目指し、ソ連崩壊以来の対米協調路線から、対米対抗姿勢に転じた。

 他方では、中国がめざましい経済成長を続けている。早ければ数年以内にも日本を追い抜いて、世界第2の経済大国となる勢いだ。それと並行して軍事力をも急拡大しつつある。いずれは、軍事パワーとしても、米国に拮抗(きっこう)する一つの「極」をなすだろう。

 BRICsという言い方が出回り始めたのは、4年ほど前からだ。2050年のブラジル、ロシア、インド、中国の経済大国化を予測し、その頭文字を並べた造語である。

 それによると、あと40年ほど後の世界では、中国が世界一の経済大国となっており、米国が2位、中国に匹敵する人口大国インドが3位へと躍進している。

 ◆重さを増す対中外交

 最近では、メキシコがロシアより上位に来るとも予測されているが、いずれにしても、中国、インドという新たな「極」が出現し、日本の経済的存在感は大きく後退する。

 購買力平価で見ると、すでに1995年に中国は日本を追い抜き世界第2位、06年にはインドも日本を抜いて第3位になっているとの報告もある。

 世界のパワーバランスの変動過程には、さまざまな曲折、摩擦もあろうが、今後、日本にとっては、新たな「極」となりつつある中国との関係が、外交政策上、もっとも難しい重要な課題となるだろう。いわゆる「戦略的互恵関係」をどう構築していくかということである。

 しかし、日本外交の基軸が日米関係であり続けることには、変わりはない。中国との関係を適切に調整していくためにも、見通しうる将来にわたり、日米同盟を堅持していかなくてはならない。

 福田首相が、日米同盟関係とアジア外交の「共鳴」を掲げているのも、そうした判断からだろう。

 懸念されるのは、中国の興隆にともない、米国の日本に対する関心が低下するのではないか、ということだ。

 米大統領選挙に手を挙げているヒラリー・クリントン候補が、21世紀の2国間関係で「最重要」なのは中国だと述べたことが、話題を呼んでいる。

 ◆日米同盟基軸は不変

 だが、だれが次期大統領になるかにかかわらず、中長期的には、米国にとっても、経済・軍事巨大パワーとしての中国との関係が「最重要」課題になるのは、いわば、自然な成り行きだろう。

 そうした米国と、今後も、「最も重要な同盟国」としての関係を維持するためには、日本もこれまで以上のさまざまなチャンネルを通じての外交努力、あるいは相応の負担をする覚悟が要る。

 その対米外交にしても、中国・アジア外交その他にしても、機動的な日本外交展開の前提になるのは、国内政治の安定である。国内が混迷状態では、日本の対外的発言、約束も信頼性が薄れ、外交力が弱まってしまう。

 ところが、現在の日本は、衆・参院の与野党ねじれ状況により、内外にわたる重要政策について迅速な政治決定が困難になっている。新テロ特措法を巡る迷走は、その象徴である。

 内政上、喫緊の課題ともいうべき税財政改革も、ほころびの目立つ社会保障制度の抜本改革も、与野党の次期衆院選がらみの思惑で先送りされている。

 社会保障制度が持続する条件は、そのための財政的裏打ちがしっかりしていることである。社会保障費の伸びに見合うだけの財政収入増がなければ、いずれ財政が破綻(はたん)する。財政が破綻すれば、社会保障制度も破綻する。

 08年度政府予算案の社会保障費は、約22兆円、一般会計歳出の4分の1を占める。08年度以降も、高齢化に伴う自然増だけで毎年1兆円近い。他方で国の債務は年間税収の10倍以上に達してなお増え続け、利払い費だけでも9・3兆円に及ぶ。

 ◆危機の財政、社会保障

 財政上の見通しがつかない中で、政府は社会保障関係費の伸びを切り詰めてきた。だが、そうした手法を重ねた結果、年金制度の将来不安だけではなく、医療、介護などに至るまで“システム崩壊の危機”といった声が上がっている。

 こうした窮状を打開するには、国民全体が広く薄く負担を分かち合う消費税の税率を引き上げる以外に、現実的な財政収入増の方途はない。実は、そのことを与野党ともよく知っているはずだ。それなのに改革をためらっている。

 ドイツでは、現メルケル首相率いるキリスト教民主同盟が消費税(付加価値税)率引き上げを公約に掲げながら選挙で勝利したという近例がある。だれしも増税がうれしいわけはないが、ドイツ国民はそれが必要なことを理解した。

 ◆強い政治的意思を示せ

 日本国民も、その必要性、それによる福祉の将来像などを丹念に説明すれば、理解できないはずはない。

 福田政権が当面なすべきことは、内外に強い政治意思を示すことである。

 新テロ特措法案に限らず、外交上、財政上、あるいは国民生活上必要な政策・法案は、憲法に定められる「3分の2」再可決条項を適用して、遅滞なく次々と断行していくべきである。

 野党の問責決議を恐れる理由は、まったくない。「3分の2」再可決は憲法に明記されているルールだが、問責決議などは、憲法にも国会法にもまったく根拠のない性格のものだ。内閣不信任決議とは、およそ重みが違う。

 衆院の任期は、あと2年近くある。解散・総選挙を急ぐ必要はない。

 もちろん、政策・法律の断行に際しては、国民に対する丁寧な説明を怠ってはならない。

2008年1月1日  読売新聞)
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