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教育ルネサンス

激戦! 塾・予備校(10)

電子黒板で受講生獲得

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電子黒板で動画を使いながら進む佐鳴予備校の授業=加藤祐治撮影

 電子黒板を使った授業で躍進する学習塾がある。

 ホワイトボードに、海中でうごめく奇妙な生き物が次々と映し出された。コンピューターグラフィックスで再現された、約5億年前の古生代カンブリア紀の生き物たちだ。佐鳴(さなる)予備校西高前校(浜松市)の中学1年向け地学の授業。教室に普通の黒板はない。

 ピカイアという、ナメクジのような古生物が登場した。「水の流れや温度を感じ取って、素早く逃げるのが最大の武器なんだ」と講師の吉留博巳さん(38)が説明しながら、ペンで画面にタッチすると、動画が静止する。ピカイアは、原始的な背骨を持ち、脊椎(せきつい)動物の遠い祖先とされる。吉留さんはホワイトボードに大きく、「進化」と書いた。

 浜松市で1965年に創業、静岡、愛知、岐阜、石川県に約200校を持つ佐鳴は2003年、全校舎に電子黒板を導入した。ホワイトボード左上に取り付けたセンサーが、電子ペンとパソコン、天井に設置したプロジェクターをつなぐ。

 この日の授業で使ったのは、NHK番組「生命 40億年はるかな旅」の映像だった。同じ校舎の中2の化学では、金属を燃やす実験映像が映し出され、中1の数学では、講師がフリーハンドで図形問題に書き加える線が、画面上で瞬時に修正されるようになっていた。吉留さんは「電子黒板は圧倒的に子供を引きつけ、理解を深める。教える側の世界も広がる」と語る。

 佐鳴はこの電子黒板と小中学生用の教材を、ソフト開発メーカーやNHKの関連会社「NHKエデュケーショナル」とともに約19億円かけて開発。英語の「Seeing is believing(百聞は一見にしかず)」から「See―be(シー・ビー)」システムと名付けた。

 開発のきっかけは、佐鳴を運営する「さなる」(本社・東京)の佐藤イサク社長(59)の、「黒板を変えたい」との思いだった。1998年、サッカーW杯を報じるテレビニュースを見ていた佐藤社長は、解説者が試合の録画映像に線や矢印を書き加えて説明する様子に、「これは授業に使える」とひらめいたという。

 現役講師が開発に加わり、黒板でチョークを用いる感覚で使えるよう、反応速度を高めさせ、ペンの太さにもこだわった。教材も、講師が授業中、自由に引き出せるよう、映像素材を単元ごとにまとめた。NHK側と、ニュースや歴史ドラマ、教育番組などから授業に使えそうな映像素材約2600点を探し出した。

 See―be導入後、小中学生の受講者数がこの4年間で25%も増えた。教材の他塾への販売も始め、現在全国約70塾400教室で採用されている。昨年買収した、九州の学習塾「九大進学ゼミ」での導入も進める。

 ただ、「See―beはあくまでも道具の一つ」と佐鳴は考える。各教室にはパソコンとつないだカメラが設置され、若手がベテランの授業を見て研究を重ねている。

 学習塾の「黒板革命」は、講師の知恵と熱意に支えられている。(松本由佳)

 電子黒板 コンピューター画面をプロジェクターで投影し、画面上でペンを動かすと書き込みや操作ができる。英国の公立学校での普及率は8割以上だが、日本の公立学校での普及は進んでいない。文部科学省の今年度の委託事業「電子黒板普及推進に資する調査研究」では、東京工業大の赤堀侃司(かんじ)教授が中心となり、公立小中学校6校で授業実践を試みている。

(2008年3月8日  読売新聞)

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