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教育ルネサンス

「道徳」の力(2)

達成感 シンクロ通し共有

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保護者らに披露された6年生全員によるシンクロナイズド・スイミング(9月13日、横須賀市立武山小学校で)=森下綾美撮影

 学校行事での達成感から道徳心をはぐくむ試みがある。

 神奈川県横須賀市立武山小学校の6年4組の教室で18日、教師と子供たちが車座に座ってDVDの映像を見ていた。9月半ば、6年生全員で披露したシンクロナイズド・スイミングの演技の映像だ。

 音楽に合わせて踊りながら、次々にプールに飛び込む女子チーム。トビウオのようなジャンプを続ける男子チーム。4か月もかけて振り付けや曲を考え、夏休みも学校に通って練習を重ねた日々を思い出したのか、どの顔も紅潮している。

 「楽しかった人は?」。教務主任の高野(こうの)裕司教諭(51)が尋ねると、一斉に手が挙がった。「では、思い出しながら少し考えてみようか」。責任感がテーマの道徳の授業だった。

 高野さんがこの手法を取り入れたのは2年前。担任になった6年生は、授業中に立ち歩く子が目立ち、けんかも絶えなかった。だが、読み物資料を使った道徳では狙い通りの発言をする。「頭では理解している。なら学校行事を活用してみよう」

 シンクロは子供たちの発案だ。当時、シンクロに挑む男子高校生を描いたテレビドラマが人気だった。

 子供たちは毎日、ビデオを見ながら振り付けを考えた。言い争いも、弱音を吐く場面もあったが、本番で喝采(かっさい)を浴びると、そろって「やって良かった」と喜んだ。

 「行事が成功して良かった、で終わらせず、自分たちのやったことの意味を確認し、深める時間が道徳。繰り返すことで成長につながる」と高野さん。

 後日の道徳の時間には、発案時から本番まで、一人ひとりに書かせた日記を教材に振り返った。記された不平、不満も紹介しながら、「それでもやり遂げられたのはなぜだろう」と問いかけた。

 「仲間が頑張っていたから」「かっこいいところを見せたかったから」――。高野さんはその都度、相づちを打ち、短いやりとりをした。その中で、子供たちがやり遂げることの大変さや意味、達成感を実感していくのがわかった。

 音楽会や卒業制作などでも、同様の取り組みを続けるうちに、クラスは落ち着いていった。

 18日の授業でも、子供たちは言葉を交わすうちに、顔をくっつけるようにして語り合っていた。「学校を休んで自分の練習が遅れた時、さびしかった」「武山の伝統行事にしてほしい」

 「そんなことを考えているとは知りませんでした」とやりとりを後ろで聞いていた担任の小和田直樹教諭(26)が感心する。

 子供の奥の感情を引き出すため、高野さんは自分の過去もさらけ出す。家が貧しくて食べることしか考えなかった小学生時代。中学や高校ではツッパリと呼ばれたが、熱血教師ドラマに感化されて勉強を始めた。

 道徳は理念先行で、教師の一方的な説教に終始することも少なくない。だからこそ、子供自ら体を動かし、他者とふれ合う経験を生かす手法が「力」を発揮する。(松本美奈)

 道徳の目標と取り組み方 現行の学習指導要領では、「学校の教育活動全体を通じて、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うこと」を目標としている。また、各教科、学校行事などの特別活動、総合的な学習の時間における道徳教育と密接な関連を図りながら進めることもうたわれている。

(2007年10月31日  読売新聞)

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