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教育ルネサンス

先生の「夏休み」(10)

仕事減るが暇ではない

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三者面談も夏休み中の仕事。「時間割」からは解放されても、長期休業中にしかできない仕事がたくさんある

 「先生の夏休みは長い」という誤解は、いまだにあるようだ。

 「世間は、夏休みの教師には仕事がないと思っているということを実感する出来事が相次ぎました」と福岡県の中学校の教師夫婦から便りが届いた。

 保育所の連絡帳に「お子さんがお別れの時に泣くのは、お父さん、お母さんが家にいるからでしょう。お休みの日でも、お仕事に出かけるふりをして朝、準備するといいですよ」と記されていた。さらに、「近所の奥さんからも、『教師は夏休みは働かなくていいからいいですね』とも言われました」。

 実際には、夏休みに入ってからも、部活動の指導などで週末にも休みがなく、夫婦とも最初に休めたのが8月10日だったという。

 休み中、妻の勤務校では、生徒指導のための夜のパトロールが3回回ってきて「子供の入浴と食事を済ませた後にでかける」。夫の勤務校の地域のパトロールは不定期。「学校で仕事をして、自宅に戻らないまま出かける」という。

 こんな実態と世間の見方の落差にショックを受けたというのだ。

 小学校の女性教師も「『先生には長い夏休みがあっていい』という誤解がまだ多い」とメールで訴えた。

 「教員は普段から家庭で仕事をすることが多い。テストの採点、授業の教材研究など、机の上でできるものは持ち帰って当たり前」。特に女性の多い小学校では、子供を迎えに行ったり、夕飯を作ったりする必要に迫られる。

 「自宅で仕事をすることに慣れているためか、夏休みも家庭で仕事をする教員は多い。クーラーのない職員室でするぐらいなら、有休を取ってでも自宅で、という人は多いのです」

 そして「仕事量が少なくなるのは本当だが、決して夏休みも仕事をしていないわけではない。ゆとりがあるときしかできない大事な仕事もある」。

 このほか、神奈川県の元県立高校の女性教師(67)からは、現役時代を振り返る内容のファクスが届いた。

 「夏休みは三者面談があり、保護者の都合で夜になることも。3年生は進学・就職先の分析に、より慎重さが必要になる。合間に、部活動の指導やクラス合宿、文化祭の準備、補習などを、冷房もない部屋でやったものだ」

 ファクスは、生徒指導面の仕事に時間が割かれることにも触れていた。

 一方、「先生は夏休みに忙しくて当たり前」という意見も届いた。会社員や高校教師を経験、現在は、千葉県で非常勤講師をしながら、それ以外の時間はスポーツで子供たちを指導する立場の男性(57)だ。

 「昔も今も、長期休業中は、時間割のない教育活動の時間であり、心に余裕をもって事に当たれる時間。登校してくる子供や、保護者、地域に対しても、研究課題に対しても、自分自身の考えに沿って存分に動ける、教育者としてはやりがいのある時間のはずだ」

 学校の内と外の両方を知るだけに、「教員の社会は不平不満の集団。忙しいと錯覚している面がある」と指摘する。

 多忙感には心の持ちようが影響することは確か。一方で、教師には余裕を持って課題に取り組む時間も必要なはずだ。冷静な目で判断したい。(茂)

 次週からは、全国の大学に広がるユニークな地域貢献について紹介します。

(2007年9月1日  読売新聞)

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