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教育ルネサンス

学校 統廃合(11)

都立高 独自学科へ再編

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陶芸家の長谷川剛さん(中央)から、商品になる陶芸品の作り方を学ぶ橘高校の1年生(12月6日)

 東京都立高校の大胆な統合・再編が進む。

 「陶器の色付けで大事なのは、際(きわ)(境目)がしっかりしていること。これをできるのが、売れる物を作るプロの仕事だからね」

 都立橘(たちばな)高校(墨田区)の陶芸室で、足立区在住の陶芸家、長谷川剛さん(49)が、コップに色づけする1年生に熱っぽく語りかけた。

 他の教室では、雪だるまをモチーフにしたガラス細工、定期券も収納できる革製のキーホルダー、銅板を加工したレリーフなどを製作中。要した材料の原価、製作の技術料も自分たちで計算している。

 「産業技術基礎」と呼ぶ1年生の必修科目で、週3回授業がある。「単に加工技術を学ぶだけでなく、どうやったら売れる商品が作れるかを体得することに力点を置いている」と大室文之校長(55)。

 橘高は、区内にあった向島商業と向島工業を統合する形で、昨年4月に開校した。八王子市内の第二商業と八王子工業を統合した八王子桑志高とともに、起業家育成などキャリア教育を目的とした全国初の「産業科」を設けた産業高校だ。

 1年生から、起業する方法の基礎を学ぶ「起業家精神と職業生活」、パソコンでの情報収集や情報発信を学ぶ「情報基礎」といった授業がある。目指すのは、もの作りから販売までを総合的に学ぶプロの育成だ。

 長谷川さんだけでなく、服飾、クラフト(工芸品)などの専門家5人を「市民講師」として招く。大学の経営学部や工学部などへ進学もできるよう、2年後期から文系、理系の「進学選択科目」を設け、毎週土曜日には補習も用意されている。

 1年生の佐藤あゆみさん(16)は、学校説明会で、ガラス工芸などを体験したことがきっかけで、入学を決めた。「金属、革製品の作り方、コスト計算までするところがいい」と佐藤さん。将来は、クラフトを扱う職業に就きたいという。

 都教委は、少子化に伴っう都立高校の統廃合を大胆に進めている。1997年の全日制208校を2011年には179校(中高一貫校を含む)に減らす計画だ。工業高校や商業高校を見直す例も多い。

 それらを総合学科や単位制高校などに生まれ変わらせるとともに、産業高校のようなユニークな高校を次々と誕生させている。

 「高校へのニーズが多様になり、普通科、工業科、商業科といった、従来の学科の区切りだけでは対応できなくなっている」と都教委の松尾正純・都立高校改革推進担当課長。定時制高校などでは統廃合反対の声もあったが、「実態に合っていない学校を何とかしてほしいという声の方が大きかった」。

 進学や就職の実績が、目に見えて表れるのは、まだこれからだが、東京が公立高校再編の先頭を走っていることは間違いない。(高橋敦人、写真も)

 都立高校改革 1997年からスタート、2003年には学区を完全に撤廃した。産業高校だけでなく、科学技術高校、進学型商業高校、総合芸術高校、昼夜間定時制で、不登校、中退経験者らを再挑戦させる「チャレンジスクール」などができている。進学指導重点校の指定や中高一貫校設立も、改革の一環。

(2008年1月29日  読売新聞)

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