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教育ルネサンス

いじめと教育委員会(3)

自殺原因 認定まで1年超

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(上)市教委の開示した文書を手に話す南忠善さん=野口賢志撮影(下)来春、統廃合される堺市立商業高校

 自殺の原因を修正するまでに、教育委員会は何をしたのか。

 「私をいじめた多くの方々へ 担任の先生へ おうらみします……」

 そうはっきりと書いた遺書を残し、堺市立商業高1年の女子生徒(当時16歳)は、マンションから飛び降りて命を絶った。1999年10月15日のことだった。

 遺書の存在は、その日のうちに、遺族が校長に伝えた。事件の2日前、女子生徒はいじめられていることを担任に相談していた。

 前日には、この生徒が、いじめた同級生にカッターナイフを突き出す騒ぎが起きていた。相談に十分な対応をしてもらえなかったことで、思い余っての行為とみられ、この時も生徒はいじめられていると訴えた。市教委の職員は、騒ぎを受けて、この日、学校を訪ねていた。

 だが、学校が市教委に伝える最初の「事故報告書」(10月18日付)には、遺書の存在も、担任が相談を受けたことも記されなかった。市教委も、そのことを問題視しなかった。担任への相談には、目撃した生徒がいることを、遺族はその年のうちに突き止めていた。その訴えは、市教委幹部らにも再三、届けていたが、市教委は聞く耳を持たず、担任は1年以上、相談された事実を認めなかった。

 生徒らへの聞き取り調査で、体育祭でのいやがらせなど、いじめと受け取れるような行為が判明しても、学校や市教委が、それをいじめだと認定することはなかった。

 遺族の指摘で、遺書の内容が報告書に書き加えられたのは2000年2月25日。正式に事実を公表し、いじめを自殺の主因と認めて遺族に謝罪したのは2001年1月18日だ。自殺から1年3か月かかった。

 いじめ自殺が社会問題化した昨秋、文部科学省は、児童生徒のいじめ自殺件数が連続ゼロとなった1999年度以降で、いじめとの関係が指摘された41件を再調査するよう指示した。その結果、14件でいじめを受けていた事実を確認、うち2件は「いじめによる自殺」と原因が修正された。北海道滝川市の小学校の例と、堺市立商業の例だ。

 それまで、堺市の例は原因が「不明」だった。「既に発表でいじめを認めており、訂正まで気が回らなかったのだろう」と降井慶治・生徒指導担当課長(53)。

 児童生徒の自殺や暴力行為、不登校などは、年度ごとに国に報告される。修正に明確な規定はないが、再調査の回答でも市教委は担任の責任には触れなかった。

 事件発生当時に堺市教委の学校指導課長で、翌年度から学校教育部次長として遺族との交渉にあたった芝村巧氏(59)は、今、教育長の職にある。芝村氏は「関係者が一緒に事実確認をする場を設けることに時間がかかった」としながらも、「早い時点で、担任への相談の証言をした生徒から話を聞くべきだった」と反省の言葉も口にした。

 女子生徒が通った高校は来春、統廃合される。当時の担任は戒告処分を受けた後、校長になった。父親の南忠善さん(56)ら遺族は「全部が忘れられ、なかったことになっている気がする」とやりきれなさをにじませた。(野口賢志)

 事故報告書 学校の設置者である教育委員会が提出させる書類。提出時期や報告する基準は各教育委員会が決めている。「事故」の範囲は幅広く、児童・生徒の非行や犯罪、交通事故、成績表紛失といった教諭による事故、災害による校舎の被害なども報告事項になる。新たな判明事項の報告を義務付けたり、当事者・保護者に内容を確認させたり、意見書の添付を認めたりしている教育委員会もある。

(2007年5月3日  読売新聞)

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