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教育ルネサンス

教育県 検証(5)

「進学力」一辺倒 脱皮図る

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大勢の生徒が質問に訪れる富山中部高校の放課後の職員室

 高い進学実績を誇る富山県の高校教育に課題はないのか。

 富山中部高校(富山市)の放課後の職員室は質問に訪れる生徒でにぎわう。職員室前の廊下の壁にもホワイトボードがあって、教師が板書しながら生徒に解説する姿がある。廊下には生徒が順番待ちをする長いすも置かれている。

 家庭学習の充実も口酸っぱく指導される。学校が掲げる目標は「平日4時間、(補習が隔週である)土曜日6時間、休日8時間」。予習を確実にこなせば授業の密度が濃くなるからだ。1年生には4月に2泊、9月にも1泊の学習合宿があり、3年生には年7回、進路面接をする。こうした手厚い指導体制で、3人に2人を国公立大に現役で進学させている。

 富山県では、富山中部、富山、高岡の進学校が御三家と呼ばれ、しのぎを削るが、他校でも、始業前の補習授業に取り組むなど、学力向上に力を入れている。全国各地から視察があり、中には1週間にわたって始業から放課後まで視察を続けた例もあるほどだ。

 1月14日に富山市内で開かれた県の教育タウンミーティングで、参加者が「お隣の石川県は進学面で成果を上げていると聞く。進学指導、学力向上策のさらなる充実に取り組んでほしい」と知事に要望する一幕もあった。

 「2007年の国公立大進学率は20・6%で全国2位」

 昨年11月には、石井隆一知事が設けた「明日のとやま教育創造懇話会」の資料で、こんな数字も示されている。富山県が学校基本調査を基に独自に集計した。

 進学率が高い背景には保護者の意識もありそうだ。

 県教委が07年に保護者を対象にしたアンケートでも、「高校に期待するもの」として、「生涯にわたって学び続けるための確かな学力や技術、資格、技能の習得」(61・3%)、「調和のとれた豊かな人間性や社会性の育成」(53・3%)に次いで、「大学進学のための学力の習得」も31・0%を占めた。

 06年秋、全国的に問題となった高校の必修逃れ問題は富山県が発火点だった。

 その後、県教委が設けた有識者会議は、昨年3月にまとめた報告書で、一連の問題を「大学入試に直結した学力の重視がエスカレート、教員に生徒の進路実現のためであれば少々のことも許されるという意識があった。情熱や使命感がはき違えられた典型的な事例」と分析している。

 また、手取り足取りとも言われる指導方法や、詰め込みになりかねない学習そのものへも疑問の目が向けられる。「富山県は単なる進学県じゃないか。課題探求型の大学教育についていけない子が多い」。県教委の加藤敏久・県立学校課長は、十数年前、都内の大学教授に言われたひと言が今も忘れられない。

 県教委も、こうした声に対して危機感を持ち、新年度から、思考力や探求力の育成に取り組む研究校を作る方針だ。関係者の取り組みは、新たな段階に入ったと言えそうだ。(宮本清史、写真も)

 国公立大進学率 富山県が独自に、学校基本調査の各都道府県別国公立大入学者数を各都道府県の卒業者数で割って計算した。ただ、入学者数が現役と浪人の合計となるため、県教委も「正確な指標ではない」としている。全国平均(11・2%)と北陸4県の数字のみを示しており、福井県が21・4%で全国1位。

(2008年2月19日  読売新聞)

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