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教育ルネサンス

入試最前線’07(6)

全高校を推薦指定校に

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北陸大では、薬学部実験棟の中に薬局を置き、調剤の実務を学ばせている

 全日制高校すべてを指定校にして推薦入試をやった大学がある。

 金沢市の私立北陸大学で昨年11月8日、指定校推薦入試の合格者が発表された。同大には、薬学部と、法学部と外国語学部を統合して作った未来創造学部がある。

 この中で薬学部は合格者が193人と、昨年の28人から大幅に増やした。定員の中の指定校推薦枠を、20人から、ほぼ3分の1に当たる120人にまで増やし、5200校を超える全国の高校を「指定校」にして募集要項を送った結果だった。

 出願条件は〈1〉校長が責任を持って推薦〈2〉調査書の評定平均が3・0以上〈3〉専願――である。募集要項の最初のページには「あなたの学ぶ意志が入学条件」とうたわれている。

 従来、指定校推薦は、卒業生の実績を認めた大学が合格を約束する制度だ。最近は、送り出す側と受け入れる側の関係も変わりつつあるが、長い付き合いから生まれる「お得意さん」の関係を生かすことには変わりがない。

 それを一挙に全校に広げようというのは、乱暴にも映る。調査書の評定が同じ数値でも、高校によって実際の学力に隔たりがあるからだ。

 しかし、河島進学長(64)は自信を見せる。

 「面接や調査書などで選ぶAO選抜で入った学生は、一般入試の学生より薬剤師国家試験の合格率が高かった。意欲を重視して入学させるのは推薦入試も同様で、十分にレベルを保てる」

 こうした大胆な制度を取り入れた背景には、薬学部が置かれた状況の厳しさもある。

 近年、資格志向の高まりで薬学部人気が続き、私立大薬学部は新設ラッシュとなっていた。ところが、修業年限が4年から6年に制度改正されると、状況が変わった。学費の負担などもあって一転、志願者は減少傾向になったのだ。

 各大学は、ライバル増加と志願者減という二つの逆風への対応を迫られている。

 北陸大では、6年制への変更を機に入学定員を460人から306人に縮小した。こうした中で打ち出したのが全校指定だ。推薦入試と銘打った「お得意さん」開拓のローラー作戦と見ることもできる。

 しかし、もし1000校以上から応募があったら、それだけで大学全体の定員の倍になってしまう。指定しておいて受け入れ切れないとなれば、信頼を大きく損なう危険がある。

 教職員が手分けして約3000校へ説明に回ったところ、大半は理解を示したが、「一方的に指定校にすると言われても、とまどうだけ」と不快感を隠さない高校もあったという。

 結局、受験生殺到という事態にはならず、おおよそ事前の読み通りだった。

 北陸大卒業生の06年度の薬剤師国家試験合格率は72・53%。今後は、この実績を上回れるのか。あるいは最低限、実績を維持できるのか。これが成否の目安となりそうだ。(赤池泰斗)

 増える薬学部 2003年度に2大学、04年度に8大学、05年度に6大学、6年制がスタートした06年度に5大学で薬学部が新設された。いずれも私立大学で、このうち日本薬科大と横浜薬科大、千葉科学大は大学そのものが新設。募集定員は4年間で計3375人増え、6年制だけで1万1220人になった。今春にも大学の新設が1校、学部の新設が4校あり、さらに710人上乗せされる。

(2007年1月11日  読売新聞)

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