ついに日本語が世界一の
“ブログ言語”になった
2007年4月、ブログ検索サービスを提供する米国テクノラティが興味深い調査結果を発表した。同社がトラッキング対象としている7,000万以上のブログについて、2007年第1四半期の動向を分析したところ、日本語によるエントリー投稿件数が全体の37%を占め、英語の36%を抜いてトップの“ブログ言語”になったというのだ。
この話を聞いて、日本人は「書くこと」が大好きな民族だったのだなぁ…とあらためて感じた。古く鎌倉時代、「徒然草」のころから日記文化が芽吹いていた日本は、個人ホームページにおける「Web日記」の時代を経て、ブログ時代になり、その才能が一気に花開いたのではないか──そう思わずにはいられないほど、現在の日本のブログは百花繚乱の様相を呈している。
筆者の身近でも、70歳をはるかに超えた老先生がブログを始めたところだ。実は先生にブログのことを教えたのは筆者なのだが、教えた翌日には早速無料ブログサービスを利用してブログを開設、それ以来こまめに日記を更新し続けている。このように、「書くこと」の好きな人は老若男女を問わず多い。あるテーマについて、プロの作家顔負けの深さで長文のエントリーを書き続ける人がいる一方で、ケータイからその日そのときにあった出来事をメモ代わりに書き付ける人もいる。こうしたユーザー層の広がりが、先述したテクノラティの調査結果にも反映されているに違いない。
「書くこと」が好きな日本人は
Web2.0との親和性が高い?
「書くことが好き」と言えば、最近話題のTwitter(http://twitter.com/)においても日本語がかなりの多数派を占めているようだ。Twitterは「今、自分が何をしてるのか」の短いメッセージをPCやケータイなどから入力して公開し、友人などと参照しあってコミュニケーションを図るという単純なサービスなのだが、意外と中毒性があってハマる人が続出している。このTwitterは米国発のサービスだが、公開されている新着メッセージ(Public timeline)を眺めていると、日本時間の深夜や早朝を除けば日本語のメッセージが半分近くを占めているような状態だ。
さらに、ご存じのとおりmixiも相変わらずの隆盛を誇っている。ひとときのような大きな伸びは見られなくなったものの、月間ページビューのランキングではYahoo! Japan、Googleに次いで国内3位の座をキープしている。日記やコミュニティなど、ユーザー自身が書き込むコンテンツを主体とし、しかも紹介制で運営される(だれにでも公開されているわけではない)mixiがこの地位を占めているというのは驚くべきことだろう。ここにも「書くことが好き」な日本人の姿がほの見える。
そもそも「Web2.0」という新しいインターネット環境自体、「書くことが好き」な日本人との相性が良いのではないだろうか。「Web2.0」の定義はさまざまに言われているが、その1つに「ユーザー自身がコンテンツを自由に作成、編集し、公開できるWeb環境」というものがある。Web2.0は、かつてあった技術的な障壁をなくし、「書くことが好き」なユーザーが大活躍できる場として現れたのだ。
SNSやブログで垂れ流される
断片的な個人情報は安全か
さて、ここで問題となるのが「垂れ流しになっている個人情報」だ。以前から何度もこのコラムで取り上げているが、筆者はぼんとうに心配なのである。
ここ数年、「個人情報の保護」が声高に叫ばれ、個人情報を取り扱う企業では情報漏えい対策に追われている。インターネットユーザーの側でも個人情報に対する意識が高まり、「信頼できないWebサイトに個人情報は入力しない」とか「不審な電子メールには返信しない」とかいった対策は、もはや一般常識となっている。
だがその一方で、SNSやブログでは、ユーザーの側から積極的に自分の情報を公開していることが多い。情報を公開している本人がその危険性に気づかず、あとで痛い目に遭うようなこともしばしばだ。
最近でも、ウイルスに感染してPCから情報が漏えいし、そこからmixiのアカウントを探り当てられて個人情報が暴かれ、ついには自宅や職場の写真までもがネット上に広まってしまう事件が発生した。きっかけはちょっとした情報漏えいだったにもかかわらず、mixiに蓄積された日記やプロフィールなどから被害が拡大し、最終的には社会的に大きなダメージを被るようなことにまでなってしまったのだ。
大抵のユーザーは、SNSに公開するプロフィールや日々のブログへのエントリーには、ごく断片的な個人情報しか書かない。そのものズバリの個人情報を書いてしまうのは怖いからだ。
だが、そうした断片的な情報も決して安全なわけではない。ネット上で長期間にわたり蓄積されるうちに、断片的な情報も膨大な量となってしまい、それらをつなぎ合わせることで具体的な個人像が浮き彫りにできてしまう可能性があるのだ。何らかの事情で運悪く「話題の人」になってしまうと、面白半分でネット上の個人情報をかき集めるユーザーが出現し(Googleという便利なツールもある)、さまざまな個人情報が暴露されるという悲惨な結末が待っている。
かといって、ネット上に自分の人柄や属性がわかるような情報を「一切載せない」というのは、実につまらない。mixiなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)は、本質的に個人の属性や人間関係を公開しなければコミュニケーションの輪が広がっていかない性質を持っている。また、ブログにしても先述のTwitterにしても、より具体的に書かなければ面白みがないのだ。個人を特定され、情報を暴露されるのは怖い。だけど、ネットでのコミュニケーションはこれまで以上に楽しみたい――ユーザーは、この2つの矛盾する状況の間で立ちすくんでしまっているのである。
そのほかにも、架空請求詐欺の被害に遭うことも考えられる。例えばこれは昨年話題になったテクニックだが、自分のWebサイトにちょっとした仕掛けを施せば、mixiのオートログイン機能を有効にしているユーザーのアカウント情報(ユーザーID)を抜き出すことができる。悪質な詐欺業者がWebサイトにこのトラップを仕掛け、「mixiの○○さんですね。サイト利用料として1週間以内に××万円を振り込んでください」と表示させれば、ユーザーは恐怖に凍り付いてしまうだろう。さらに、ログに記録されたユーザーIDからmixi上の個人情報を掘り起こし、しつこい請求を繰り広げる可能性もある。ちなみに、このテクニックはmixiだけでなくYahoo!などのユーザーIDでも応用されるおそれがある。
個人情報を扱うサイトでは日々、技術的な情報漏えい対策が進められている。だが、肝心のユーザー自身が個人情報を垂れ流しているようでは対策の意味がない。個人情報がWeb上に拡散し、蓄積される時代だからこそ、すべてのユーザーにおける情報リテラシーの確立と、状況に即した「アップデート」が急務だと言える。
NETWORKWORLD 7月号(2007年6月18日発売)掲載
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