昭和ヒトケタ生まれの
父親あての年賀状に驚く
年が明け、今年も多くの年賀状が届いた。いろいろなくふうが凝らされた年賀状は眺めているだけで楽しいものだが、今年は少し手書きのものが増えたような気がする。
今年、筆者の下に届いた約150通の年賀状のうち、宛名がプリンタで印刷されていない手書きの年賀状は、15通未満(10%以下)だった。かなり少ないように思われるかもしれないが、筆者の場合はPCスキルの高い知人が多く、昔からプリンタ印刷の年賀状比率が高い。一昨年の年賀状の手書き率が約5%だったことを考えると、じわじわと「手書きへの回帰」が起きていると言える。ちなみに、友人に手書き率をたずねたところ、大体30〜40%くらいとのこと。これが30〜40代男性の平均的な値だと思う。
さて、届いた年賀状を整理するうちに、筆者はあることに気付いた。筆者は昭和ヒトケタ生まれの両親と同居しているのだが、その両親あて、特に父親あてに届く年賀状に、宛名をプリンタ印刷したものが増えつつあるのだ。
枚数を数えてみたところ、父親あての今年の年賀状における手書き率はおよそ60%。つまり、残りの40%はPCやワープロのプリンタを使って宛名が書かれている。父親は昭和5年(1930年)生まれで80歳目前、年賀状を送ってくださる相手も同世代の70歳オーバーの方が多いという。その世代の方から届く年賀状の4割がPCやワープロで作成されているというのは、ちょっとした驚きだ。
一般家庭にカラープリンタが普及したのは、1995年のWindows 95発売以降である。特に、1998〜1999年前後には誰でも簡単に使えるリーズナブルな製品が登場し、一気に普及した。事実、1995年の国内のプリンタ市場は170万台。それが1999年には490万台と3倍にも拡大している。現在では、PCはすっかり家電に溶け込んでおり、TVショッピングなどでもPCやプリンタが販売されている。
だが、いくらPCやプリンタが一般化したと言っても、昭和ヒトケタ世代の4割もの人が、みずからPCを操作して宛名を印刷するというのは考えにくい。おそらく、筆者の父親のように、家族がプリントアウトして渡した年賀状に一言書き添えるだけ、というケースが大半ではないだろうか。
PCの達人も登場!?
高齢者恐るべし
それでも、もしかしたら高齢者自身がPCやプリンタを自在に操り、年賀状の印刷を行っているケースがあるかもしれない。インターネットからはあまり見えてこない、現在の高齢者のPC事情はどうなっているのだろうか。
疑問を解消するために、筆者はある知人に協力を仰いだ。以前、さまざまな「パソコンクラブ」を取材したことがあるのだが、そのなかに高齢者だけのパソコンクラブがあった。今回ご協力いただいたYさん(71歳)は、そのクラブメンバーのお一人だ。
Yさんは、メールソフトやダイヤルアップ接続の設定、ウイルス/スパイウェアの除去といった作業は難なくこなせるPCスキルの持ち主である。クラブの中では「世話役」的な役割で、自宅には自作したPentium 4マシンのほか、DVD-Rドライブ内蔵のノートPCとサブノートPCも所有する。
年賀状についてうかがったところ、Yさんの下には今年220枚以上が届いたとのこと。そのほとんどがプリンタ印刷されたもので、手書き率はなんと10%以下だという。筆者とほとんど変わらない割合なのだ。
年賀状のデザインも、孫や家族の写真といったありきたりのものではなく、趣味で撮影した写真をひとくふうしたものが多い。中には、自作の版画やスケッチをスキャンし、画像処理したものまである。買ってきた年賀状レイアウト集から適当に選んで作った筆者の年賀状が恥ずかしく感じるほど、全体に完成度が高いのだ。まさに「高齢者恐るべし」である。
そのほか、Yさんにはパソコンクラブ関連の制作物も見せていただいたが、年賀状や暑中見舞いをはじめ、クッキングレシピ、カレンダー、旅行の思い出といった作品を、スライドショーで閲覧できるよう画像化してきちんと保存されていた。さらに、WordやExcelの文書はさながら「お手本」のようで、さまざまな機能を自在に使いこなしている。
クラブの現状をうかがうと、メーリングリストを開設してメンバー間の連絡を取り、週に何度かのセミナーを行っているという。セミナーの教材はすべてメンバーの手作りで、何名かのインストラクターに参加してもらって自習形式で運営しているそうだ。また、年に何回かはクラブ活動の発表会も行っている。作品展示のほか、訪れた子どもたちの写真を撮影して手作り名刺を作るコーナーもある。まるで、高校の文化祭のような「ノリ」の良さなのだ。
インターネットに
高齢者が流入する時代へ
「70代の高齢者」と聞くと、一般的にはPCとは無縁の存在を想像してしまいがちだが、現実にはYさんのようにPCを使いこなしている方も決して少なくはない(余談だが、筆者の母親なぞ毎日PCでゲームを楽しんでいる)。だが、インターネット上にWebサイトを設け、積極的に情報発信をしているという話はあまり聞かないし、実際に見かけることも少ない。これにはさまざまな理由が考えられるが、一つには、世代的にみずから率先して考えや意見を主張することに消極的な方が多いことがあるだろう。加えて、プライベートな日記をWebで公開するのは「不作法なこと」として、好まない方も少なくないのではないだろうか。
実際に筆者がお会いした70代の方々からも、PCを使って自己表現するのはクローズドな仲間内だけで、ひっそりと楽しまれているような印象を受けた。クラブや仲間内では派手に楽しく遊んでいるが、それ以外の場ではPCに関する会話はほとんどしない――そういった控えめなタイプの方が多いのかもしれない。
また、自分の作品を公開する場としては、インターネットよりも紙メディアのほうに親しみを感じられる方が多いようだ。例えば、エッセイを書いて発表するならば、ブログよりも自費出版や新聞社のコンテストなどのほうが「しっくりくる」。同様に、自分が撮った写真をインターネットで手軽に公開するのも悪くはないが、きちんとプリントして地域の文化祭などで展示するほうがやはり「自然」に感じられるらしい。インターネットで情報を受け取るだけでなく、発信する側にも立ちたいと思うが、人前に出せる程度のクオリティを持った「作品」に仕上げてからでなければ公開したくない――そんな思いが見え隠れする。
それでも、あと数年の後には、インターネットにおいてもシルバー世代の発言が台頭してくるのではないだろうか。2007年から2010年にかけ、いわゆる「団塊の世代」の方々が定年の時期を迎える。再就職してまだまだ働くという人がいる一方で、趣味やボランティア活動などにいそしむ方も増えることになる。そうした方々が、インターネットにどっと流入してくるのは想像に難くない。
現在の70代以上の方々と「団塊の世代」とで決定的に違うのは、自己表現能力の高さだ。この世代がインターネット上で遊びまわってくれたら、それはもう楽しいことになるに違いない、と筆者は期待しているのである。
NETWORKWORLD4月号 (2007年2月18日発売)掲載
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