アップローダー誕生の秘密
URLから個人情報がバレる?
掲示板と言えば、普通はテキストが中心だ。もちろんテキストだけの掲示板でも十分にその機能は果たすのだが、時には文章だけでなく、画像や動画などのバイナリデータを公開したい場合がある。そんなときは、どのような方法で公開すればよいのだろうか。
Web上で公開されているものであれば、掲示板にURLを指定して誘導すればよい。だが、自作の画像など、どこにも公開されていないものを紹介したい場合は、WebサイトやFTPサイトなどにデータをアップロードする必要がある。会員制の掲示板など、閉じられた環境であれば、自分のWebサイトやFTPサイトのURLを公開しても差し障りはないだろう。だが、そうでない場合は、URLを公開することには危険が伴う。なぜなら、メールアドレスなどの個人情報がバレる可能性があるからだ。
例えば自分のWebサイトにアップロードする場合を考えてみよう。自前のドメインを持っていれば、当然ドメイン名は掲示板に公開される。ドメイン責任者の住所氏名もしっかり公開されているので、ドメイン名さえわかれば、プライバシーは丸裸になってしまう。
独自ドメインを利用していないWebサイト、例えばチルダ(~)付きのURLを持つユーザーホームページの場合はどうだろう。この場合も、チルダ以降のユーザー名から、メールアドレスを推定することが可能となる。例えば「www.abc.com/~ohayo」というアドレスであれば、ohayo@abc.comというメールアドレスが推定できる。しかも残念なことに、その推測は当たっている場合が多い。
吹き荒れたWinnyの暴風
アップローダーとの差とは
では、個人情報を一切出さずに動画や画像を公開することはできないのだろうか。実は、このようなニーズにこたえる形で産まれたのが「アップローダー」である。
ところで、なぜここまで「匿名」にこだわるユーザーが多いのだろうか。答えは簡単だ。公開したい画像や動画が、合法的なものではないからである。
匿名のファイル共有ツール「Winny」が流行したときは、ありとあらゆるタイプの非合法ファイルが共有された。例えば商用アプリケーションや無修正アダルトビデオ、公開前の映画などである。
悪質だったのは、プライベートを無視した誹謗中傷データの公開も行われていたことだ。凶悪事件を起こした未成年の顔写真の公開などはまだ序の口。ひどいものになると、○○大学○年生○本○子のように、明らかに個人を特定できるファイル名がつけられたヌード画像などが公開されていた。
特定個人を中傷するためにわざわざ作られたものだろうが、被害者が受けるダメージは計り知れないものがある。Winnyなどのファイル共有の世界では、一度公開されたファイルは回収不能である。しかも、だれが作って公開したものなのか、ほとんど判明することはない。さらに、ネット上に一度データが流出してしまうと、たとえ表面上は消えたように見えても、不特定多数のユーザーPC内にきっちりとデータが残されているので、いつまた公の場に再登場しないともかぎらないのである。
ところで、Winnyなどのファイル共有ツールは、少人数でのやり取りには向いていない。データを公開したとたんに1対多の対応になってしまうからだ。
その点、アップローダーの場合は、アップロード先のアドレスを相手にメールするという方法で、特定の相手と自由にやり取りできる(もちろん送信元メールアドレスは一時的に利用する捨てアドレスを使う)。そのため、非合法ファイルを少人数でこっそりやり取りしたい人々に重宝されている。つまり、アップローダーは、より「危ない」データのやり取りに使われていることが多いのである。
犯罪グループも利用している?
知られざる裏社会の利用法
アップローダーで非合法データをやり取りする際は、Jpegなどの画像の中に文書やバイナリデータが偽装されていることも多い。そのため、一見するとごく普通のJpegファイルや、壊れかけのバイナリデータに見える。
「げろしゃぶ」「Black Album」「Longinus」「有罪判決」「雅入」「う〜めん」など、昔から偽装ツールは数多く登場してきた。しかも、これらの偽装ツールは盛衰が激しく、日々新しいものが登場すると言っても過言ではない。万が一を考えて、グループ内だけで通用する独自ツールを利用していることもあるようだ。つまり、偽装を見破るのは非常に困難であるということである。このように、アップローダーにおけるデータのやり取りは、身内だけの完全に閉じられた環境を実現している。
では、アップローダーを使ってデータをやり取りしたがる人々とは、どのようなタイプの人間なのだろうか。一般的には、児童ポルノなど特殊な性的嗜好を持った人々が、グループ内だけでデータを共有するために使っていることが多い。
しかし、テロリストや武装グループなど、反社会的なグループに利用されていることも多いと言われている。仲間内で共有しなければならない地図や文書のデータを、アップローダー経由でやり取りしているというのだ。今のところ、実際にテロリストどうしの通信にアップローダーが使われているという確証は存在せず、あくまで「うわさ」に過ぎない。しかし、例えばイラクの武装グループが香田証生さんの殺害現場を映した動画は、12個ものアップローダーに公開されていた。テロリストが、速やかにこのような公開方法をとれるということは、「彼らがふだんからアップローダーを使用して、ファイル共有を行っていることを示唆している」という専門家もいる。つまり、アップローダーは相当に怪しい世界とつながっている可能性が高いのである。
しかも、海外テロリストに使われているのは日本のアップローダーが多いという。香田証生さんの動画の公開にも、多くの日本のサーバが利用されていた。「日本人でもアップロードには手間がかかるのに、日本語がわからない外国人がなぜ」と思うが、実はアラビア語のWebサイトに、日本のアップローダーの使用方法の説明が書かれていたのである。インターネットに国境はないという好例かもしれない。
ともあれ、プライベートを守秘したファイル通信が可能なアップローダーの使用法は、今後ますます二極化する可能性がある。ファイル宅配便のように、だれでも簡単に使える便利な機能として認知される場合もあれば、やみの部分をより濃く残したアングラ系のアイテムとして、インターネットの深部に潜む可能性もあるのだ。
NETWORKWORLD 6月号(2005年4月18日発売)掲載
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