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教育ルネサンス

試す特区の学校(8)

実務を重視(株)大学

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デジタルハリウッド大学の英語の授業。大学は学生全員の留学を考えている

 株式会社経営の大学が相次いで生まれた。

 保護者会が年2回ある。1年のうちから就職への意識を持ってもらうためだ。授業を休むと担任から電話が入る。昨春、開学したLEC東京リーガルマインド大学(本部・東京都千代田区)の学生支援は手厚い。

 司法試験や公認会計士などの資格試験予備校を経営してきた会社の大学だけに、資格取得を目指しながら大学も卒業できるのが最大の売り物だ。

 学部名の総合キャリア学部にもつながる必修科目「キャリア開発学」の7月のある日の授業。100人を超す1年生が、ホームレス体験などで知られる作家松井計さんの講演を聞いた後、プロ意識について小グループで議論した。

 1年生の職業に対する考え方は総じて幼い。担当教官の一人、武沢史恵教授は「みんなの議論で出てこなかったのは責任感ですね」と補足して締めくくった。

 授業後、公務員試験か、行政書士の資格取得をめざす女子学生(19)が「普通の大学に行っていたら、遊んでいたか、辞めていたかも」と本音を漏らした。

 パソコンを開く学生が目立つ。情報技術(IT)分野の人材を育てるデジタルハリウッド大学は、東京・秋葉原に今春開学した。東京大など、10近い大学が事務所を持つビルのワンフロアがキャンパスだ。約1000平方メートルに教室八つ、1年生は220人余。すでに狭さが課題になっている。

 元々、株式会社で人材養成に取り組んできたが、昨春、実務家養成のための専門職大学院を、千代田区内に開設した。

 大学の目玉は、3年次での1年間の留学。それをめざす1年次の授業は半分が英語に費やされる。ロサンゼルスで入学式を行い、映画スタジオの見学もした。

 IT分野は国境のない業界だけに、留学希望者は多い。だが、「ロスでの入学式は動機付けにはよかったが、ゲーム作りは日本が一番。留学するかわからない」という男子学生(19)も。留学先で、語学留学以上の成果をしっかり出せるかどうかも課題だ。

 7月下旬の日曜、東京・麹町のビジネス・ブレークスルー大学院では、秋季入学生向けの説明会が開かれていた。経営コンサルタントの大前研一氏が今春作ったネット上の大学院だ。会社はこれまで企業研修を請け負ってきたが、2年間で経営管理修士(MBA)が取れる。伊藤泰史副学長(44)は「歴史に名を残す大学になる」と胸を張る。

 平均年齢38歳の学生50人がネット上の講義を聞き、「自分が三菱自動車の経営者だったら」といった課題に対して議論を続ける。

 旧財閥系の企業で不動産投資を手がける学生(36)は「海外でMBAを取る時間の余裕はない。社内的にも対外的にも、一流と呼ばれるよう自分を高めていきたい」と説明会参加者の意欲をかき立てた。

 認可前、教員や授業内容や施設に、様々な注文がついた株式会社大学。すでに多様な学生を受け入れ始めている。(中西茂)

 株式会社大学 構造改革特区で昨春、LEC大学とデジタルハリウッド大学院が誕生。今春、ビジネス・ブレークスルー大学院が加わったほか、LECが会計専門職大学院を開設、デジタルハリウッドが学部を作った。さらに、来春開学に向けて、専門職大学院6校が文部科学省に認可申請中だ。6校の分野は、経営学、会計などビジネス直結型が多いが、教職の大学院も含まれている。

(2005年7月29日  読売新聞)

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