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子供の食(4)

肥満対策 待ったなし

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麦混ぜご飯を食べる園児と話す栄養職員の中島恵理子さん(高円寺北幼稚園で)

 学校で取り組む肥満防止対策は、効果が出るまで時間がかかる。

 「きょうのメニューはどうかな?」

 学校栄養職員の中島恵理子さん(37)が問いかけると、教室のあちこちから「おいしい」と声が上がった。

 東京都杉並区の区立杉並第四小学校と、併設の区立高円寺北幼稚園の給食の時間。主食は、中華風の混ぜご飯だ。小松菜やニンジン、タケノコ、シイタケ、豚肉と、米に対して1割近い麦も入っている。麦は米粒大に加工されているため、見た目ばかりか、食べても気付かない人も多い。

 麦は混ぜ過ぎると、ボソボソして食感が変わってしまう。少な過ぎると栄養面の意義が薄れる。区では、試行段階で子供たちの反応や残飯の量を見た上で、昨年9月から、全区立学校で米飯給食の日はすべてを麦混ぜご飯に切り替えた。

 きっかけは、3年前に区教委と区学校栄養士会が実施した子供たちの排便調査結果だった。「便が毎日出る」と答えたのは、小学生で63%、中学生で60%止まり。その他の子供たちは便秘気味で、中には「8日に1度」もあった。

 また、昨年度の調査では、肥満傾向のある子供の割合が、男児の小学4、5年と中学の全学年で全国平均を上まわっていた。

 管理栄養士の資格を持つ区教委の鈴木桂子さん(29)が言う。

 「麦は食物繊維が多く、便秘の解消が期待できる。食物繊維は消化のスピードを緩やかにするので、肥満防止にも役立ちます。はっきりしたデータはありませんが、肥満になる子とそうでない子の二極化傾向が見られるのが気がかり」

 愛媛県新居浜市立神郷(こうざと)小学校の戸井和彦教諭(47)は、数年前に勤務していた小学校で信じられない光景を目にした。

 自分の分の給食を食べ終えた児童数人が、空っぽのはずだった鶏肉の空揚げの配ぜん容器から、残っていた揚げかすをすくって食べたのだ。野菜、フルーツなども残っていたにもかかわらず。

 「いずれも肥満気味の児童です。ショックでした」

 食生活を見直す授業を始めたのは、それからだ。

 平安貴族と鎌倉武士の食事と、給食の栄養価を比較させる。長寿食とされる沖縄料理の特徴を探らせる。国民の医療費が増加しているグラフを見せて、なぜなのか考えさせる。時間制限があって食べ放題の焼き肉店に行ったら、どう行動するか質問したり、ステーキの脂身部分を取り除いているイラストを見せて、どう思うか問いかけたり。

 そんな具体的な授業の中身を昨年、「危機的な状況にある食生活を見直す授業」(明治図書)という1冊の本にまとめている。

 「効果はすぐには出ないかも知れませんが、問題に気づかせるのは難しいことではない」と戸井教諭。「このまま放っておくと将来、大変なことになる。それを食い止めるのは教師の重要な役割です」とも強調した。(中島達雄)

 肥満傾向児 文部科学省は、同年齢、同身長の児童の平均体重より20%以上体重が多い子の割合を毎年の学校保健統計で示している。11歳男児を例に取ると、1970年度の約3.1%が2004年度に11.1%と3.6倍に。04年度では男女とも、10代前半の10人に1人が肥満傾向児だ。文科省は、「肥満傾向があり要注意」と学校医が判定した子供の割合も示しており、04年度の11歳では3.2%。

(2005年7月8日  読売新聞)

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