3月4日付 編集手帳
度を過ぎた徳は害をなす、と語ったのは伊達政宗である。壁書(家法)に言う。「仁過ぐれば弱くなる/義過ぐれば固くなる/礼過ぐれば諂となる/智過ぐれば嘘をつく/信過ぐれば損をす」と◆なかでも傍が迷惑するのは常軌を逸した「義」(人として行うべき正しい道)だろう。その人自身は正しいことをしている信念に凝り固まり、反省することもないから、ときに悪人より始末が悪い◆南極海を航行していた日本の調査捕鯨船が米国の環境保護団体「シー・シェパード」の船から液体入りの瓶などを100個以上も投げつけられた。瓶は割れ、海上保安官など3人が目の痛みを訴えたという◆有機酸の一種、酪酸とみられ、原液ならば失明の恐れもある危険なものである。国際条約に基づく正当な活動を暴力で封じる。許しがたい蛮行であり、犯罪行為である◆鯨を保護することが人として正しい道だと考えるのは自由である。だが、おのが「義」を貫くためならば、違法行為を含むあらゆる手段が正当化される――そう信じているとすればテロリストと変わらない◆壁書が教えるように、「仁過ぐれば弱くなる」。彼らもいずれは日本の主張を理解してくれようから、ここは穏便に…と、過剰な「仁」は禁物だろう。無法者には法に基づく厳正な捜査と、処罰があるのみである。
(2008年3月4日02時14分 読売新聞)