YOMIURI ONLINE
現在位置は
です

本文です

3月8日付 編集手帳

 古川柳に〈江戸じゅうを越後屋にして虹がふき〉とある。越後屋は三井呉服店ともいい、三越の前身である。雨の日には通りすがりの客にも傘を貸した◆傘には店の名が大きく書いてある。多くの人に重宝されたことは「江戸じゅうを」で知れる。借りたまま失敬する不心得者は雨が降るたびに越後屋の宣伝係をつとめるわけで、貸し倒れにも備えている◆街に不況の雨が降るときこそ、中小零細企業に傘を貸すのが金融機関である。それを、貸し渋るとは何ごとか。自前で傘貸し業を始めよう…と、東京都が出資して設立されたのが「新銀行東京」である◆志は高く開業して3年、越後屋ほどには貸し倒れに知恵が回らなかったらしい。食肉卸会社で牛肉の偽装が発覚した翌日、その会社に5000万円を融資するような大甘の審査をしていれば、銀行が経営難に陥ったのも道理である◆都は銀行に400億円の追加出資をする意向という。この資金と大幅な人員削減で経営難を乗り切るというが、ただでさえ行き届かなかった審査の目が、人手を減らして行き届くとも思えない。金融界の貸し渋りは解消しつつある◆川柳には、〈傘かりに沙汰(さた)のかぎりの人が来る〉という句もあった。「沙汰のかぎり」(=論外)の借り手を見抜けない以上、慣れぬ傘貸し業は店じまいの潮時だろう。

2008年3月8日01時49分  読売新聞)
現在位置は
です