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二階堂記者の「完全自給食」体験記

 日本の食料自給率は39%。国民1人1日当たりの摂取エネルギー(熱量)のうち、国産食材が供給できるのは、996キロ・カロリーに過ぎません。もし、海外からの食材や飼料穀物の輸入がストップしたら、私たちの食卓はどんなメニューになるのでしょう。取材班の二階堂記者が、読売新聞の社員食堂で「完全自給食」に挑戦しました。

農水省のイベントに招かれた!

2月26日

 農水省の「日本SHOCK!フェア・報告会」に招かれました。

 「日本SHOCK!フェア」とは、東北大学の学生が、イモ類を中心にした2020キロ・カロリーのメニューを、大学の生協で朝昼夕各30食、1月15、16日の両日にわたって提供し、食料の自給率について考えたイベントです。

 農水省がイベントを紹介し、読売新聞の「食ショック」をはじめ多くのメディアで取り上げられたので、ご記憶の方もいるのではないでしょうか(ちなみにですが「食ショック」とは全く別に計画されたイベントで、それぞれの名称に「ショック」がついたのも偶然です)。

 報告会は、東北大学の学生と私のそれぞれの「自給食体験」を踏まえ、食の問題について自由に議論しようと開かれました。会場を訪れたのは、農水省の担当者や報道関係者をはじめ、30〜40人ぐらいだったでしょうか。

 まず、東北大学の学生がイベントの内容について報告。パワーポイントによる資料を使って、4人が交代でスピーチしていましたが、何よりその堂々たる話しぶりに感心しました。少なくとも私が学生の時よりははるかにしっかりしているな、と。

 続いて私の番。体験は記事にもブログにも書いているので、体験報告自体はできるだけコンパクトにまとめ、読者から寄せられた意見の紹介に時間をかけました。特に「農業機械を動かすのに必要な燃料の自給率も考えると、日本の食料自給率はさらに下がるのでは」という読者の意見には、農水省の担当者も強い印象を受けたようでした。

 続いて、一連の取材を通じて私の感じたことを、問題提起しました。その内容は大きく2つです。

 まず、もっと食べ物のムダをなくすことを考えるべきではないでしょうか。

 例えば、賞味期限の問題があります。「安全・安心」に過敏になりすぎる余り、賞味期限が過ぎているからといって、まだ食べられるものを捨てているのではないでしょうか。また、食品ごとに個別の農薬残留基準を設定し、基準のないものはかなり厳しい一律基準で規制する「ポジティブリスト」も、現実にそぐわない面があるのでないか、といったことです(あまり口にしない穀物でも、他の穀物なら問題のない農薬が少し残っていたからと言って、外国に返品したり、時には廃棄処分の対象になったりしています)。

 あまり言い過ぎると、「消費者軽視」との批判を受けかねませんが、膨大な量の食料を輸入し、かつ捨てている現状はどうにかしなければいけません。

 もう1つは、国産品を食べてもらうにはどうすればいいかということです。

 読者からは、「コメを中心とした和食を見直そう」という意見も多かったのですが、私自身、4日間の自給食体験中に、ラーメンやパスタを食べたいと思いました。ただ「和食を食べよう」とキャンペーンを行うだけでは、限界があると思います(もちろんムダではないですが)。

 それはそれとして、例えばですが、国産品に関心のある人が国産品を買いやすく、食べやすくしたりする仕組みが作れればいいなと思います。例えばすでに始まっている、国産品を使っている飲食店の店頭に「緑ちょうちん」を掲げる取り組みなどです。

 2つの発表で1時間を超え、農水省の方もいろいろな感想を述べられたので、意見交換の時間はあまりなかったのですが、1つ一致したのは、「見える化(ビジュアル化)」が必要だということです。自給率を高めるということと、直接つながるような、つながらないような話なのですが、「自給率39%」と数字をあげるだけではダメで、やはり実際のメニューを提示するのが大事なのです。

TBSラジオ「アクセス」に出演

2月27日

 夜、TBSラジオの「アクセス」に出演しました。スタジオとリスナーを結んで様々なテーマについて直接討論する番組で、当日の出演者は、アナウンサーの渡辺真理さんと評論家の宮崎哲弥さん。

 今回のテーマは「学校給食と自給率」で、言い方を変えると、「学校給食で国産品をもっと使う方がいいのか、それとも国産品は値段が高いので、ある程度は輸入に頼るのも仕方ないか」が議論の中心でした。

 あらかじめ伝えておいた携帯電話に、スタジオから電話がかかってきたのは午後11時ごろ。少し前からラジオを聞いていたところ、プロデューサーから「ラジオは切って、しばらく携帯を聞いていて」との指示があり、携帯を耳に当てていると、なるほど、番組の内容がそのまま携帯を通じて流れてきました。

 番組では、渡辺さんや宮崎さんの質問に答えていく形で、「完全自給率体験」の内容を紹介しました。スピーカーは基本的に渡辺さんで、時々宮崎さんからの突っ込みあり。肝心の「学校でもっと国産品を食べた方がいいか」という質問には、「コメや野菜は地産地消もありだけど、小麦や肉などは現実として難しいので、無理のない範囲で国産品の消費量を増やしていけばどうか」と答えました。

 「また自給食体験をやりたいですか」との問いには「もういいです」とも。時間にして5分ぐらい。あっという間でした。 。

テレビにも出演しました

2月28日

 CS放送の「日テレG+」で放送されている、読売ニュースナビ「自給率ピンチ どうなる日本の食卓」に出演しました。

 一連の「食ショック」をダイジェストで伝える内容で、前半は「完全自給食体験」を踏まえて、日本の食卓がどれだけ危機的な状況にあるか、後半はどのようにすれば自給率を上げられるか、がテーマです。

 取材してきたことを素直に話せばいいので、テレビ収録には割に気楽に臨みましたが、カメラを前にするとやはり緊張。特に難しかったのが数字の読みで、いざ声に出してみるととちったり、棒読みになったりでした。

 台本を読むより、むしろキャスターの中谷久美子さんの質問に答える形で受け答えする方が楽なぐらいでした。

動画 日テレG+ニュースナビ「自給率ピンチ どうなる日本の食卓」
記者プロフィール

二階堂祥生
(にかいどう・さちお) 34歳


経済部で主に商社を担当。長崎生まれの九州男児で、カステラとチャンポンに目がない。魚はサバなどの青魚系、牛肉なら焼き肉よりしゃぶしゃぶ、中華はマーボー豆腐(辛いやつ)が好み。牛乳は飲めるけど苦手。

経歴:1996年入社。横浜、金沢支局などを経て2002年から経済部。
体形:175センチ、63キロ(やせ形)
コメント:体験取材は面白そうだと思ったけど、メニューを見て後悔しました(泣)

コメント募集中。(紙面やサイトで使わせていただくことがあります)

 読売新聞は2008年、「食」を主要取材テーマの1つに据えました。統一タイトルは「食ショック」。
 1月には経済面で、少子高齢化に悩む食品産業の事情を追った連載「序章 縮む胃袋」をお届けし、2月5日からは1面で、食料安全保障問題に焦点を当てた第1部の連載が始まりました。今後も、食品の安全性や食文化について連載を予定しています。ご期待下さい。

「食ショック」紙面連載一覧 「序章 縮む胃袋」
(全6回 経済面)
1) もの食わぬ人々(1月7日)
2) 消えゆく「一家団らん」(1月8日)
3) ユーロ高、欧州に競り負け(1月9日)
4) 安心軽視のツケ 信用に傷(1月10日)
5) 産直取引や通信販売拡大(1月12日)
6) 日本食新興国に活路(1月13日)
「農薬汚染」
(全3回 社会面)
上) 「生協 信用してたのに」(2月2日)
中) 中国食品の安全、内外に格差(2月3日)
下) 「安全にはコスト必要」(2月4日)
第1部「細る自給率」
(全5回 1面)
1) 3食国産…「質」「量」落第(2月5日)
2) 世界の胃袋が争奪戦(2月6日)
3) 「米どころ」も耕作放棄(2月7日)
4) 備蓄は安全保障策(2月8日)
5) 「食べる人」意識改革を(2月9日)
完全自給食実験
(経済面)
記者が体験 自給食「2日が限界」(2月5日)
識者インタビュー
(全4回 経済面)
1) 丸紅経済研究所長・柴田明夫氏(2月6日)
2) JA全中会長・宮田勇氏(2月7日)
3) 東京大学教授・鈴木宣弘氏(2月8日)
4) 横浜市立大学木原生物学研究所長・駒嶺穆氏(2月9日)
「お答えします」
(全5回 経済面)
1) タマゴの自給率、なぜ10%(2月19日)
2) 凶作に備え食料どう確保(2月20日)
3) 荒れた田んぼ なぜ放っておくの(2月21日)
4) 中国が食料輸入国に 日本は平気か(2月23日)
5) 株式会社で農業効率化できないか(2月25日)
読者の声特集
(特集面)
「農と食」に危機感(2月27日)

※完全自給食について
 996キロ・カロリーは、輸入が途絶した場合に、政府の食料備蓄や食料品の流通在庫を除いて今すぐに国内で生産できる、いわば日本の食料供給の「素の実力」です。
 一方、2020キロ・カロリーは、国の「食料・農業・農村基本計画」に基づいた農業の姿が2015年に実現した場合に、農水省が試算した自給可能なカロリーです。
 試算の前提として、1)2015年度目標の「食料自給率45%」が達成できている 2)米や野菜などの作付けの一部を、よりカロリーの高いいも類などに転換する――などの条件が付きます。作付け転換には時間がかかるので、いざというときにすぐ2020キロ・カロリーが実現するわけではありません。ちなみに2000キロ・カロリーは、昭和20年代後半の供給熱量とほぼ同じ水準になります。
 なお、医師等のアドバイスも踏まえ、体験は「途中断念あり」という緩やかな条件で行いました。

4日間のメニュー一覧はこちら。

関連リンク:
農水省・食料自給率の部屋
JA・全国農業協同組合中央会
gooリサーチ
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