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教育ルネサンス

学校 統廃合(14)

過疎の山村 異なる選択

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1年生5人がコの字形に机を並べて数学を学ぶ根羽中学校。教師は黒板代わりに小さなホワイトボードを使っていた(1月22日)

 統合か存続か、近隣の村の選択は分かれた。

 生徒数22人の長野県清内路(せいないじ)村立清内路中学校で、1月22日に行われた体育の授業は、2、3年生合同だった。15人の生徒が広い体育館をいっぱいに使って剣道に取り組んでいた。

 同中は2010年度、隣接する阿智(あち)村の村立阿智中に統合されることが決まっている。村唯一の小学校、清内路小に通う5年生は3人、4年生は4人。このままでは、中学校は10年度に1、2年生合わせても基準の8人以下、複式学級になるのは避けられない。しかも、昨年4月から現在まで村の出生はゼロ。将来、子供が増える見込みもない。

 パソコンルームや多目的ルーム、屋内プールを備えた校舎は築わずか8年。原和機教育長は「建設当時は、UターンやIターンを見込んで毎年10人ずつ生徒を確保できると思っていた」と説明する。

 清内路村では将来的には村同士の合併を望む。阿智中までは最も遠くに住む生徒で十数キロ。スクールバスなら20分ほどで通学できる。この4月に清内路中に入学する生徒は、一足早く新阿智中の制服を着て登校する。

 阿智村が、阿智中校舎の改築に合わせ、近隣の清内路、平谷(ひらや)、根羽(ねば)の各村に中学校の統合を打診したのは05年のことだ。いずれも中学が1校しかない。村自体が翌年に浪合村との合併を控えており、将来、浪合中を統合することも決まっていたため、他の3村にも声をかけた。

 近隣の自治体が共同で学校を運営する場合、「一部事務組合」を設立するのが一般的だが、阿智村では組合を作らず、自治体間の事務委託の形で他村の全生徒を引き受けることにした。県内の複数の組合立学校を視察、その苦悩ぶりを目の当たりにしたからだ。

 「組合を作ると、事務局を設置して規則を定め、議会を開く必要がある。小さな役場を作るのと同じ。仕事量は今の倍に増える」と阿智村の林茂伸教育次長。

 阿智村の提案を、清内路村と平谷村も受け入れ、阿智中は11年度、浪合中のほか、平谷中も統合する。生徒数は約240人になる見込みだ。

 一方、根羽村は、生徒数23人の根羽中を存続させる判断をした。全戸対象の説明会で、教育長が統合問題を説明。幼児、小中学生の保護者計50人の意向調査もした。

 阿智村に最も遠いこともあって、存続を望む保護者は33人と多数派だった。「学校のない村はますます過疎になってしまう」「小規模校だからこそできる利点は多い」という意見や、「統合すると、部活動の朝の練習のために5時半に家を出なければならない」と子供の負担を心配する声が多かった。

 村の試算では18年まで複式学級を作らずに済む見込みだ。片桐貴伸教育長は「統合を考えるのは10年後でも良い」と考えている。

 学校の規模や通学の負担など、様々な要素を考慮しながら、何が子供たちにとって最良の選択か。山村の模索は続く。(大垣裕、写真も)

 事務委託 学校教育法は、学校を設置できない市町村が「学齢児童(生徒)の全部または一部の教育事務を他の市町村や組合に委託できる」として、村の生徒丸ごとの事務委託も想定しているが、前例はなさそうだ。文部科学省によると、組合立中学校は2006年度で全国に31校あるが、これまでの事務委託は、近隣市町村の学校の方が近い一部生徒が越境入学するような例。

(2008年2月1日  読売新聞)

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