YOMIURI ONLINE
教育メニューです
本文です

教育ルネサンス

検証 特区の学校(2)

通信制 生徒集め奮戦中

写真の拡大
元ホテルの一室で、掛橋さん(中央)に近況を報告する内田さん(左)。一色校長(右)も笑みをこぼす

 生徒集めは、急増した株式会社立通信制高校の共通の悩みだ。

 「仕事はつらいか?」「夜中の2時くらいまでかかるときもあります」「そうか。まあ、自分のためになると思って頑張れ」

 三重県志摩市の元ホテルを校舎にする代々木高校の一室で11月17日、年配の男性と若者が向き合っていた。料理人として40年以上の経験を持つ掛橋友二さん(59)と、同校が今春設置した料理人コースの生徒、内田英志さん(15)だ。

 その姿を、高校の運営会社の社長でもある一色真司校長(47)が見つめていた。同校は、別の通信制高校の生徒をサポートする東京の私塾を母体に開校した株式会社立の通信制高校。内田さんは、この日、スクーリング(対面授業)で、約1か月ぶりに学校を訪れた。

 料理人コースは、人材不足に悩む地元の料理人グループと提携し、料理修業をしながら高卒資格を取得させる。掛橋さんはグループのリーダー格で、コースに入学した3人の相談に乗り、職場も訪問している。

 同じ日、1階ロビーでは、カツオの一本釣り漁の漁師松本拓明さん(27)が、スタッフとカリキュラムの打ち合わせを続けていた。

 松本さんは今秋開設された漁師コースの最初の生徒で、この日が初のスクーリング。中卒で漁師になり、「盆と正月以外はほとんど海」という生活にも不安はないが、「高校くらいは卒業しておきたい」と思い続けていた。「これを逃したらチャンスはもうない」。厳しい漁の合間に集中授業を受けることになる。

 同校は、プロテニス、メークの専門家など、職種や分野で細かく分けた49のコースを持つ。専門学校、組合、会社など受け皿となる機関と提携した。3年目の現在、生徒は約500人。当初目指したのは数千人規模だ。一色校長は「(少数のニーズをかき集めて売り上げを伸ばす)ロングテール戦略」と表現する。

 ソフトバンク系列のルネサンス・アカデミー社が経営するルネサンス高校(茨城県大子町)。社長も兼務する桃井隆良校長(54)によると、2006年春の開校前には、初年度の生徒数を1000人と見込んだが、集まった生徒は約120人。06年度決算で約2億3000万円の赤字を計上した。

 生徒を入学させる前の保護者に「金もうけ主義じゃないですか?」とよく聞かれた。ソフトバンク系列がプラスに働くと期待していたが、ライブドア騒動でIT企業のイメージが低下したことも、生徒集めに大きく影響したのだ。

 携帯電話での授業リポート提出システムの導入、保護者との連絡体制の強化など、反転攻勢に知恵を絞る。来年度からは、授業の一部を携帯向けに動画配信するプランも進行中。生徒数も11月現在で約360人まで増えてきた。

 「教育内容がよくなければ絶対に生き残れない」と桃井校長。そのための地道な努力が続く。(宮本清史、写真も)

 来春には19校に 株式会社立の通信制高校は現在13校。来年度にはさらに6校増える予定だ。学校設置会社連盟によると、生徒数が3000人を超える学校もあるが、多くは400人未満。文部科学省によると、通信制高校数は10年前の2倍近くの192校まで増えたが、生徒数は約18万人で約2万人増えただけだ。

(2007年12月5日  読売新聞)

ご意見やご感想、体験談を募集しています