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教育ルネサンス

大学の地域貢献(6)

風土に合う家づくり研究

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「地域に根ざした家づくりを」と話す田中さん。一番手前の模型がモデルハウスになった

 地域の気候風土に根ざした大学発の家づくりが進む。

 上から見ると三角形の木造家屋は、山梨県甲斐市の新興住宅街にあった。足を踏み入れると、外の残暑がうそのよう。山梨県の「甲斐の家プロジェクト」で出来たモデルハウスだ。

 「夏はひときわ暑く、冬はひときわ寒い。そんな甲府盆地に合うように考えて出来ています」と山梨大学教育人間科学部の田中勝・准教授(45)(住居学)。玄関や窓の大きさや配置は、風の通り道を考えてある。軒は、夏の日差しを遮るため約1メートルあるが、冬の陽光を取り入れるのに邪魔にならない角度が計算された。

 元々、田中さんが審査委員長を務める県主催の「甲斐の家」アイデア募集コンテストで、2002年度の最優秀賞に選ばれた高校生の作品だ。そのデザインにほれ込んだ甲府市の工務店経営、手塚康次さん(64)が2800万円を投じて建築した。「大手メーカーに負けない地元の匠(たくみ)の技を見て欲しい。これぞ甲斐の家」との自負を込めたという。

 田中さんは、愛知県の豊橋技術科学大大学院を修了後、豊田工業高等専門学校の教員になった。「その土地の気候風土や暮らしに合う家づくり」に本格的に取り組むようになったのは、1996年に公募で当時の山梨大学教育学部助教授に転じてからだ。

 県内を散策する中で見かけた古民家がきっかけだった。座敷や土間が広くとられていた。集落の伝統的な互助組織の寄り合いに備えた知恵だった。窓の位置や軒の長さなどにも、それぞれ理由があった。古い慣習や風土に基づく家づくりが残る事実にうれしさがこみ上げ、守っていきたいと考え、学生たちも引き連れて、県内の調査も行った。

 その思いがあるだけに、県からの「プロジェクト」への協力依頼は、二つ返事で引き受けた。

 コンテストは6回行われ、作品は紙製の模型に加工されている。田中さんは、この模型を使って、大学だけでなく、県内の中学や高校に出向き、住まいと暮らしを考える授業もしている。今月29日には中高生を対象に大学で「住まい塾」を開く。「建築という観点だけでなく、地域作りや生き方という面からも家づくりを考えて欲しい」

 県産材と県民のアイデア、技術を結集した「甲斐の家」はまだ1棟だけだが、コンテストには、県外からの応募も目立つようになった。建築会社も関心を寄せる。「甲斐の家」が、産学共同開発の住宅ブランドとして脚光を浴びる日が来るかも知れない。(松本美奈、写真も)

 甲斐の家プロジェクト スギやヒノキなどの山梨県産の材木の需要増加を狙った県の施策で、2001年に始まった。アイデア募集コンテストでは、デザイン画や作文、設計図を募集している。最優秀作品は、子供や高齢者にも住みやすいかなども検討しながら、一部手直しもして模型を作る。

(2007年9月11日  読売新聞)

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