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教育ルネサンス

「平和」の今(7)

トラブル機に関心高まる

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関西学院大学の「平和学『広島・長崎講座』」は人気の高い講座の一つだ

 思わぬ出来事が、平和教育への関心を高めるきっかけになる。

 関西学院大学(兵庫県西宮市)の大教室は120人ほどの学生で埋まっていた。15日に開かれた今年度5回目の「平和学『広島・長崎講座』」のテーマは核兵器と国際政治。これから「アメリカ社会と原爆」「戦後補償」「日中戦争から考える」といったテーマも予定されている。

 講座が始まったのは2004年。その準備が進められていた03年夏、関西学院大の学生が、広島・平和記念公園にある「原爆の子の像」の折り鶴に放火する事件が起きた。留年が決まってむしゃくしゃした男子学生の仕業だった。

 「戦争や原爆を考えさせる教育をしてこなかったことを反省した。この後、学生有志が折り鶴を広島に贈ったり、講座に予想を上回る学生が集まったりした。事件を機に、平和を考える機運が高まりました」と教務部長の村田治・経済学部教授(51)。

 講座は、単に「平和が大切」「戦争は悲惨」と説くのではなく、学生に想像力や知識を求めている。これまでのリポートの課題には「自分が被爆三世と仮定し、原爆開発者の孫と、日本軍の重慶爆撃による被害者の孫と会ってどんな会話をするかを考えよ」「高齢化した被爆者の立場になって、自由に意見を述べよ」といったものがある。

 担当の野田正彰教授(63)は「若者は、インターネットで情報をつまみ食いし、相手に合わせて意見を言っているように見える。自分として戦争や平和をどう考えるか、という経験をさせたい」と狙いを語る。

 大学には、同時に「平和学特別演習『ヒロシマ』」も新設された。8月6日を挟んで、姉妹校の広島女学院大学に出向き、原爆被害の実態を学んだり、討論したりする。毎年約30人が受講している。

 「学校のある渋谷、青山は、流行や文化を発信している。平和教育の重要性も、芸術や文化などを通した新しい方法で発信できればいい」「戦争体験者の証言がつまらない、退屈だという表現は非難すべきだが、体験を伝える難しさについては重要な指摘だと思う」

 青山学院大で05年12月に開かれた勉強会「私たちは戦争体験をどのように受けとめ、引き継げばよいのか」で、大学生や高等部の生徒は次々に意見を述べた。参加者は約250人。沖縄・ひめゆり平和祈念資料館の説明員や大学教授らの講演もあった。

 きっかけは同年2月、高等部の英語の入試問題。「元ひめゆり学徒隊の話は退屈で、飽きてしまった」とする一節があったことが批判された。高等部の生徒から「自分たちで何かできないか」という声が上がり、大学のゼミでも戦争体験の継承について議論したいといった反響があり、大学と高等部が勉強会を企画した。昨年も勉強会は開かれ、今年も予定されている。今春、大学には「平和を考える」という科目も開設された。

 社会が平和であればあるほど、平和教育にはきっかけが必要なのかもしれない。(木田滋夫、写真も)

 広島・長崎講座 核兵器の威力や非人道性を認識させることを目的とした大学講座。秋葉忠利・広島市長が1999年、被爆体験を学問として継承する講座を内外の大学に広めるよう提唱、市の外郭団体が、内外の大学に開講を働きかけている。今年5月現在、国内では東京大学や早稲田大学など16大学、海外では米・シカゴ大学など11大学に開設されている。

(2007年5月23日  読売新聞)

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