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教育ルネサンス

いじめと教育委員会(4)

「核心」公開まで厚い壁

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公開された公文書を前に話す女子生徒の母

 いじめに関する聞き取り調査はなぜ公開されなかったか。

 公文書の公開請求をした遺族が、埼玉県や蕨市から渡されたのは、娘の名前や住所、校長名まで黒塗りにされた、A4判1枚の事故報告書だけだった。主な自殺の原因は「不明」とされていた。県から渡されたものは、教育長名や公印まで黒塗りにしてあった。

 蕨市立中学2年の女子生徒(当時14歳)が自宅マンションから飛び降り自殺をしたのは2004年6月3日。公開されたのは7月から8月にかけてだった。

 女子生徒は自室に、ノート3ページ分の遺書を残していた。いじめの中心人物への怒りだけでなく、友人への感謝や、罰ゲームで告白させられた男子生徒への謝罪もつづられていた。その中身は、自殺の当日に、校長と担任が確認。翌日には聞き取り調査用として担任がコピーした。

 市教委の指示で、学校は、このコピーを元に、関係者の聞き取り調査をした。5日後に、遺族宅を訪れた校長らの口からは、遺書にあったいじめが具体的に語られた。しかし、公開請求では、この調査の中身は非公開とされた。「調査報告は通常、担当者間が口頭で行う。そのメモは公開される公文書ではない」という理由だった。

 「何か進展はないのか」と、県には、1年後にも公開請求をしたが、出てきた文書は全く同じだった。

 蕨市の事例は、文部科学省への報告で、自殺の原因が「不明」の場合の「その他」とされた事例の一つだった。昨秋の文科省指示による再調査で「いじめも一因」と修正された。

 遺族は、「いじめが主要な原因」と考えている。しかし、市教委が原因を判断した根拠は、非公開のままとなっていた「担当者の個人メモ」。遺族は、今回の修正でも、相談を受けず、蚊帳の外に置かれた。

 昨年12月25日、秋山亜輝男教育長(64)、寺山治雄学校教育課長(55)ら市教委幹部が遺族を訪ね、遺族に聞き取りもせずに修正したことを謝罪した。ただ、この時の話し合いで、遺族は「いじめは自殺の一因に過ぎないなら、ほかの理由は何か」と問い詰めたが、市教委側は「分からない」と繰り返し、「本人の口から聞いたわけではないので、主たる原因とは断定できない」と話したという。

 結局、メモとされた「調査記録」は、そのものではなく、メモをまとめた文書が公文書とされ、名前などを伏せる形で公開された。事件前日に女子生徒が書いた作文も、遺族の要望で公文書として公開された。

 遺族にとっては妥協だった。ただ、これで、作文や調査記録をまとめた文書は、誰もが中身を知ることができるようになった。

 「私はどうしてイジメをするんだろうと思います」「自分の考えを一方的に通すのではなく、お互いを理解しあうことがいいのではと私は思います」。作文にはそうつづられている。

 「事件を教訓として、作文を学校の授業の教材として生かしてほしい」

 そんな遺族の願いは届くのだろうか。市内の学校で教材化する計画は、まだない。(野口賢志、写真も)

 公文書 国や地方公共団体が保管する文書などの記録。公文書館法では、役所で保存期限が切れて公文書館に保管されているものを指すが、役所で現在使われている文書(行政文書)にも使われる。情報公開法は行政文書を、職員が職務上作成取得した文書で、組織的に用い保管するものとしている。文書開示の決定権は行政機関の長にある。自治体も、独自に条例で情報公開を規定している。

(2007年5月4日  読売新聞)

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