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教育ルネサンス

奉仕とボランティア(7)

継続が生む大きな成果

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贈呈式に集まった有森裕子さん(右から3人目)、上田学教諭(左)=尾賀聡撮影

 「継続は力」が証明されている。

 東京・上野のホテルで15日夜、車いすの贈呈式が開かれた。80台分の目録を、地雷で足を失ったカンボジア人男性に渡したのは中学生。カンボジアの支援に取り組むNPO「ハート・オブ・ゴールド」代表で、元五輪メダリストの有森裕子さん(40)が「必ず現地に届けます」と力強く応えた。

 車いすは、大阪教育大学付属天王寺中学校など、大阪府内の10校の生徒が、技術科の授業で新品同様に生き返らせた。天王寺中が中古の車いすを修理して発展途上国に贈る活動を始めて17年。これまでに2500台以上を東南アジアなどの9か国に贈ってきた。技術科の上田学教諭(50)は「こんなに続くとは」と感慨深げだ。

 最初は生徒会活動だった。贈呈先から心のこもった礼状が届き、役員の生徒たちのやる気は増したが、車いすを集める病院回りや、修理・輸送費用捻出(ねんしゅつ)のための廃品回収に使えるのは、放課後や休日が主だ。負担は重く、他の生徒の参加を促すのも難しかった。

 そこで上田さんが思いついたのが、技術・家庭科の授業だ。1年はユネスコの発展途上国支援、2年で車いす修理、3年は「車いす利用者にとっての街の障壁とは」というように、「共生」について幅広く考えられるカリキュラムにした。

 活動の輪は次第に他校にも広がった。「ボランティアはだれにでもできる。ふだんボランティアを受ける側の生徒たちにも、そのことを伝えたい」と府立和泉養護学校の馬渕哲哉教諭(48)は言う。

 上田さんは7年前から毎夏、希望者を現地に連れていく。生徒は、車いすが通行不能な街並みを目の当たりにし、贈るだけでは根本解決にはならないことを知る。外交官や医師になって支援したいと勉強を始めた生徒もいる。「続けることで、生徒も世の中も変わっていくのです」という上田さんの言葉は重い。

 高知市立高知商業高校の取り組みも長い。94年以来、ラオスでの学校建設に取り組み、すでに5校が完成。東京都立高校の「奉仕」の準教科書でも紹介されている。

 こちらは生徒会主体の活動で、校内に模擬株式会社を設け、布製品やアクセサリーなどを生徒会役員が現地に出かけて買い付けし、地元の商店街などで販売。その利益を学校建設の費用に充てている。昨年はオリジナル商品も売り出した。

 年度初めに生徒会が全校生徒に業績を説明し、希望する生徒が株券を購入、活動資金にする。発案者の岡崎伸二教頭(49)は「自らの意思で活動するのが〈ボランティア〉。全員にやらせる〈奉仕〉とは違う。やはり自主性に重きをおきたい」と強調する。

 活動が現地に与えた影響を大学の卒業論文にまとめた藤岡映美さん(22)(団体職員)のような卒業生もいる。現地の人の希望になっていることを改めて確認した藤岡さんは、いずれ母校の教師となって活動を支えたいと考えている。(松本美奈)

 準教科書 教科書の発行されていない教科や教科以外の教育課程で主たる教材として使われる図書。東京都の「奉仕」は日本青年奉仕協会(東京)の研究員が編集した。ボランティア先進国、米国の取り組みを参考に「生徒自らが考え、自ら動く」ことに重点を置き、ボランティアセンターや企業の社会貢献の現状、欧米での活動実態、国内の実践例を紹介、議論の進め方も盛り込んでいる。

(2007年4月25日  読売新聞)

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