YOMIURI ONLINE
現在位置は
です

教育ルネサンス

一覧
本文です
東大解剖――第3部

(7) 心の問題「できる子」こそ

写真の拡大
本郷キャンパスの安田講堂内にある東大保健センター。精神科を訪ねる学生の数が増え続けている

 心の問題を抱える東大生が増えている。

 「友人の中にも、うつ病で休学してしまった人がいる。以来、東大生にとって、心の問題はとても身近なことだと感じるようになった」と、東京大学の理系学部に在籍する4年生(22)は明かす。

 文化系サークルで出会った友人が、うつ病で休学したのは昨年夏。普段は明るく、悩んでいる様子を見せることはなかったが、授業は休みがちだったという。

 直接の原因は分からないが、「授業についていけなかったのだとしたら、それだけでも、心理的負担は大きかったと思う。東大生は基本的にまじめですから」と友人の心を代弁する。

 東大保健センターによると、精神疾患のため休学した学生は2004年度、137人(学部87人、大学院50人)に上り、10年前の4倍近くに増えた。学生の心の健康の維持が、課題の一つに浮上している。

 学生相談所長の亀口憲治・教育学研究科教授(59)は、「できる子」だからこそ抱えてしまう東大生の弱点を指摘する。

 「受験競争の勝者である東大生は、大きな挫折を味わった体験が少ないため、失敗への恐怖を過大に想像してしまいがち。これまでは、周囲の期待に、当たり前のように応えてきただけに、つまずいた時、重圧が倍加してしまう」

 最近、心の問題を抱える東大生が増えている背景については、「社会の変化スピードが年々速くなっており、今は、まじめ一辺倒では生きにくい世の中。東大生も例外ではない」と推測する。

 しかも、大学院生が学部生より深刻だ。1990年代の大学院重点化で院生の数自体が増えているが、東大保健センター内の精神神経科への来院者数の伸びはそれ以上という。2004年度の来科者(延べ人数)は、学部生2404人、院生2906人だった。

 修士課程2年生(約3300人)に対する定期健診の際、疲れやすさや抑うつ状態について、自己記入方式で調べたところ、3割の学生が、「要注意」または「要診断」とされた。

 考えられる要因の一つに、「働き過ぎ」がある。

 1日に費やしている研究時間数を同センターに自己申告させたところ、平均12時間を超えている学科があり、「20時間」と答えた学生もいた。

 「ハイレベルな研究成果を求められ、自分を追い込んでしまう傾向がある。研究室では人間関係が固定されがちで、逃げ場がない」 保健センター本郷支所長で精神科医の佐々木司・助教授(46)の分析だ。

 センターでは、模擬症例集「学生のこころのケア手引き」を作成、2006年から教職員に配布を始めた。「強引な教員に振り回された」「研究に行き詰まった」「過労」など18例を示して、具体的な対策を指南している。

 小中学校や高校での教員のカウンセリング能力が求められる時代だが、大学の教員にも必要な能力になりそうだ。(赤池泰斗、写真も)

 3割がニート、フリーターになる不安 2005年の東大学生生活実態調査によると、「ニートにはならないが、フリーターになるかもしれない」が20.9%、「ニートやフリーターになるように思う」が7.4%いた。将来の進路について「よく悩む」人が46.9%も占めた。無気力状態になった体験についても、「よく体験する」と「たまに体験する」で計4割。

2007年3月21日  読売新聞)
現在位置は
です