よみうり入試必勝講座 WITH河合塾




2008年3月1日号 
問題解答への手引き解答例PDF
今月の問題レベル・想定時間・解答字数
問題レベル ★★★
想定時間 90分
解答字数 800字

今月は、発展レベル!
*問題レベルの見方 ★★基礎、★★応用、★★★発展
問題
本年度最後の担当は「新垣もんた」です。よろしく。
問題 次の文章を読み、後の問に答えなさい。

 「けっこう泣けますよ」。30代前半の女性記者が口火を切った。「そうかなあ。話が甘ったるくて」と中年の男性記者。「映画を見たけど、筋の運びがお手軽だな」と映画担当デスクが割って入る。「私的な日記みたいなもので、小説といえるかどうか。ただ、心に響く部分はあるね」。中堅の文芸記者が締めくくった。
 これは、美嘉さんの『恋空』(スターツ出版)など、ケータイ小説をめぐる文化部内での会話だ。
 50歳を超えている私はといえば、正直なところ、予想以上に面白かった。ある種のお手軽さや甘さは感じたし、慣れるまで横書きはつらかった。しかし、テンポの良さもあって、どんどん読み進めた。
 顔の見えない著者が携帯を使って書き、女子中高生を中心とした読者は携帯で読む。それが次々と書籍化され、『恋空』の場合、上下巻合わせて200万部以上が売れた。注目のアイドル・新垣結衣さん主演の映画は、大ヒットしている。
 文芸誌『文学界』は、新年号でケータイ小説をテーマに鼎談(ていだん)を組んだ。そのなかで作家の中村航氏は「浪花節」「演歌みたい」と評している。私はむしろ、ひと昔前のメロドラマを思い出した。ヒロインが様々な苦難、不幸に遭遇しながらも愛を貫く。定番のストーリーながら、私たちの心の琴線に触れるものがあるようだ。
 ネット社会が到来し、文学だけでなく、文化の各ジャンルはIT(情報技術)化、デジタル化の波を受け、変化の様相を見せている。
 論壇では、ネット上の論戦が広がりつつある。意見が過激になりがちな世界だけに、時には収拾のつかない状態(炎上)になることもあるが、社会経済学者の松原隆一郎氏ら、論壇誌などで活躍している論者が、ネットで積極的に発言するようになった。一方で、ネットを活動の場としていた人が「紙」の世界に登場するケースも出てきた。
 音楽業界に目を転じると、CDの生産額が大幅にダウンした反面、音楽配信の売上額が伸びている。しかも、配信売り上げの約90%は携帯電話ダウンロードだという。これからは音楽も携帯で「さわり」だけ聞くことが一般的になっていくのだろうか。
 こうした変容が、今後も続いていくことは間違いない。ネットやIT化と切り離して文化を語ることは、もはやできない状況だ。

◆表現行為の開放
 梅田望夫氏は近著『ウェブ時代をゆく』(ちくま新書)で、ネットの利点として、これまで「ほんの一部の人たち」にのみ可能だった表現などの行為が、すべての人に開放されている点を挙げる。それは、文化各ジャンルに発信者(表現者)として多くの“素人”が参入することも意味している。
 ケータイ小説が文学の新たな可能性を示しているのかどうか、見極めるのは難しい。しかし、あまり本など読まなかったであろう、若い層を掘り起こしたパワーは無視できない。ケータイ小説に限らず、ネット社会から新たな感性や知性が誕生してくるのか、固定観念や先入観をもたず、柔軟かつ冷静な姿勢で取材を続けてゆきたい。

◆古典や伝統への関心
 先端的な事象に、つい目を奪われがちだが、昨今の「古典」や「伝統」への関心の高まりも見逃せない。
 文学関係でいえば、亀山郁夫氏によるドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の新訳(光文社、全5巻)が50万部を超えるベストセラーとなった。出版界は古典・名作ブームとさえいわれる。論壇・思想の分野では、中央公論新社のシリーズ『哲学の歴史』(全13巻)など、哲学書が好調だと聞く。
 さらに、歌舞伎や落語といった伝統芸の人気は、一過性とはいえないし、クラッシックのコンサートには、シニア層を中心に多くの人が足を運んでいる。
 背景には、定年期を迎え、時間に余裕のできた団塊の世代の存在があるようだ。そこに「教養復権」の兆しを見るのは早計だろうか。
 「不易」と「流行」。情報が氾濫(はんらん)し、めまぐるしく変化する電脳社会。新しい動きを取材・報道するだけでなく、「流行」の底流にひそむ「不易」、あるいは「流行」のかたわらにたたずむ「不易」にも目を向ける。これもまた、私たちの大切な役割だと心得ている。

(2008. 1. 8 読売新聞 東京朝刊
[展望08]IT時代、不易流行を読む 文化部長・小林敬和
出題にあたり記事の一部を省略した)

(注)「不易」と「流行」
 この言葉のもとは松尾芭蕉の俳論とされているが、一般的には、「流行」とは絶えず変わっていくこと、「不易」とは変わらないこと、不変を指す。

 読売新聞文化部長の筆者は、情報が氾濫し、めまぐるしく変化する電脳社会で、新しい動きを取材・報道するだけでなく、「流行」の底流にひそむ「不易」、あるいは「流行」のかたわらにたたずむ「不易」にも目を向けることも、報道の大切な役割だ、と結論しています。この意見を参考にして、現代日本の文化についてあなたが考えることを800字以内で述べなさい。

問題解答への手引き解答例PDF
トップページ 次のページ

yomiuri online 会社案内| サイトポリシー| 個人情報| 著作権| リンクポリシー| お問い合わせ|
YOMIURI ONLINE広告ガイド| 新聞広告ガイド|
見出し、記事、写真の無断転載を禁じます Copyright © The Yomiuri Shimbun.