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二階堂記者の「完全自給食」体験記

 読売新聞が2月5日から1面でスタートさせた連載「食ショック」では、日本の食料安全保障の問題を正面から取り上げています。日本の食料自給率は39%です。現在、国民1人当たりに供給されている1日のエネルギー(熱量)2548キロ・カロリーのうち、国産食材が供給できるエネルギーは996キロ・カロリーに過ぎません。

 このことは、仮にいま、海外からの食材や家畜のエサになる飼料穀物の輸入がすべてストップした場合、私たち日本人は1日平均996キロ・カロリーしかとれないことを意味しています。ではこの場合、どんなメニューになるのでしょうか。こう考えた取材班の二階堂記者が、給食大手グリーンハウスの協力を得て、「完全自給食」に挑戦しました。場所は読売新聞東京本社の社員食堂です。

 期間は1月21−24日の4日間、1日当たりのエネルギーは前半が996キロ・カロリー、後半が2020キロ・カロリーでした。なぜ2020キロ・カロリーかは、こちらへ。 4日間のメニュー一覧はこちら。

今日を乗り切れば…

2日目 7時00分

 妻と子どもが朝ごはんを食べているのを見ながら、お茶を飲む。日本茶の自給率はよく知らないが、まあこれは大丈夫だろう。おいしそうに食べているな、ということは考えないようにする。明日から2020キロ・カロリーになることを考えると、今日を乗り切れば何とかなるはず、と自分に言い聞かせる。

 >>2日目のメニューはこちら

料理番組、チャンネル変えて!

2日目 9時00分

 朝食はご飯に青菜の酢浸し。昨日以上に、お米の味を強く感じる。たいした量ではないとはいえ、それなりに満足。前日の午後7時以来、ほぼ14時間ぶりに食事にありつけたのだから、当然といえば当然だ。

 よりによって、目の前のテレビで流れていたのはNHKの料理番組。肉豆腐の作り方だった。だし汁に肉の味を移し、豆腐に味をしみこませるのがポイントらしい。周囲に人がいなかったので、チャンネルを変えればいいのだが、リモコンが見当たらない。投げやりに、「まあいいや、少しの我慢じゃないか」と思うことにする。

力が入らない

2日目 11時30分

 東京電力の社長交代の記者会見が開かれるという連絡が入り、エネルギー業界担当の手伝いをすることに。今日はさすがに腹が減って仕方ない。何となく力もはいらないが、仕方ない。

みんなうまそうに食べている

2日目 13時30分

 昨日に続いて、ふかし芋に蒸しカボチャ、それにリンゴ。社員食堂のYチーフが「倒れないで下さいよ」と励ましてくれた。そう、ここが正念場、と自分に言い聞かせながら、ゆっくりと食べる。とはいえ、そもそも無い袖はふれない。この量じゃあ、さすがに持たない。当たり前だけど、こんな食事をしている人はほかにいない。みんなうまそうに食べている。

歩く気がしない、頭も回らない

2日目 15時30分

 経済部の分室から、東京電力の社長交代記者会見が開かれる大手町の経団連会館まで歩く。普通なら数分で着く距離だが、今日は何となく体が重い。早く歩く気が全くしない。会見中、何となく頭の回転も悪い気がするが、空腹のせいにしていいのだろうか?(Kキャップには「いつものことだろ」と、冷たく言い放たれるだろうが…)

 会見後、分室に戻ってバタバタと原稿を書いているうちに時間があっという間に過ぎていったのは、腹減ったと思い続けるより、ある意味幸せだったのかもしれない。

鬼デスク登場!

2日目 20時00分

 この「自給率メニュー企画」を統括するSデスクが、社員食堂に待ちかまえていた。「今、何食べたい?」と聞くので、「ラーメンなんかいいですね」と言ったら、ラーメンコーナーまで出向いていく。すでに閉店とわかると、今度はパスタコーナーへ行って、スパゲッティーを注文した。Sデスクはとても愉快そうだが、これは完全な嫌がらせだ。それにしてもSデスク、実においしそうに食べる。鬼だ! 鬼に違いない。

 こちらの夕食は、ご飯にサンマの切り身と大根おろし、冷やしトマト。昨夜のサバに続いて、サンマの切り身は心強い味方だ。

 Sデスクと連載の打ち合わせをしながら、心の中では、やっぱりご飯と魚の相性は抜群だよなと一人納得。何とかこれで、今日は乗り切るしかない。

体重2キロ減る

2日目 25時00分

 帰宅。家に着くと、どっと疲れが出た気がした。というより、体がだるくて力が入らない。

 風呂に入った後、体重を計ったら61.8キロ・グラム。2日で2キロ近く減ったことになる。もともとやせやすい体質だが、本当か? 初日に計り間違えたのか?

 でも心なしか、鏡に映る体が細く見える。腹が減ったが、ここが我慢のしどころ。おとなしく布団に入って、体を丸めて横になる。明け方、娘が怒った声で「ほうれんそうは、そこじゃないでしょ」と寝言を言っていた。料理の夢でも見ているのだろうか。

【gooリサーチ1000人意識調査】
Q3. 最近(例えば3年前に比べて)、自宅でカレーライスを食べる回数はどう変化しましたか?

 家庭料理の定番・カレーライスを食べる回数も、「減った」と答えた人が「増えた」と答えた人を大きく上回っています。少子高齢化に伴って、核家族化や単身世帯が増加しているためだと見られます。

>> gooリサーチ・食生活に関するアンケート

【gooリサーチ1000人意識調査】
Q4. Q3で「減った」と答えた方に)その理由を2つまでお選び下さい。

 カレーを自宅で食べなくなった理由として、20代では「外で食べる機会が増えた」が最も多いのですが、その他の世代では、「1度作ると何回か食べ続けないといけないから」「家族そろっての食事が減ったから」が多くなっています。

 全体でも「その他」を除くと、「家族そろっての食事が減ったから」が最も多くなっています。食卓から「団らん」が消えつつあることが、カレー離れにつながっているようです。

>> gooリサーチ・食生活に関するアンケート

記者プロフィール

二階堂祥生
(にかいどう・さちお) 34歳


経済部で主に商社を担当。長崎生まれの九州男児で、カステラとチャンポンに目がない。魚はサバなどの青魚系、牛肉なら焼き肉よりしゃぶしゃぶ、中華はマーボー豆腐(辛いやつ)が好み。牛乳は飲めるけど苦手。

経歴:1996年入社。横浜、金沢支局などを経て2002年から経済部。
体形:175センチ、63キロ(やせ形)
コメント:体験取材は面白そうだと思ったけど、メニューを見て後悔しました(泣)

コメント募集中。(紙面やサイトで使わせていただくことがあります)

 読売新聞は2008年、「食」を主要取材テーマの1つに据えました。統一タイトルは「食ショック」。
 1月には経済面で、少子高齢化に悩む食品産業の事情を追った連載「序章 縮む胃袋」をお届けし、2月5日からは1面で、食料安全保障問題に焦点を当てた第1部の連載が始まりました。今後も、食品の安全性や食文化について連載を予定しています。ご期待下さい。

「食ショック」紙面連載一覧 「序章 縮む胃袋」
(全6回 経済面)
1) もの食わぬ人々(1月7日)
2) 消えゆく「一家団らん」(1月8日)
3) ユーロ高、欧州に競り負け(1月9日)
4) 安心軽視のツケ 信用に傷(1月10日)
5) 産直取引や通信販売拡大(1月12日)
6) 日本食新興国に活路(1月13日)
「農薬汚染」
(全3回 社会面)
上) 「生協 信用してたのに」(2月2日)
中) 中国食品の安全、内外に格差(2月3日)
下) 「安全にはコスト必要」(2月4日)
第1部「細る自給率」
(全5回 1面)
1) 3食国産…「質」「量」落第(2月5日)
2) 世界の胃袋が争奪戦(2月6日)
3) 「米どころ」も耕作放棄(2月7日)
4) 備蓄は安全保障策(2月8日)
5) 「食べる人」意識改革を(2月9日)
完全自給食実験
(経済面)
記者が体験 自給食「2日が限界」(2月5日)
識者インタビュー
(全4回 経済面)
1) 丸紅経済研究所長・柴田明夫氏(2月6日)
2) JA全中会長・宮田勇氏(2月7日)
3) 東京大学教授・鈴木宣弘氏(2月8日)
4) 横浜市立大学木原生物学研究所長・駒嶺穆氏(2月9日)
「お答えします」
(全5回 経済面)
1) タマゴの自給率、なぜ10%(2月19日)
2) 凶作に備え食料どう確保(2月20日)
3) 荒れた田んぼ なぜ放っておくの(2月21日)
4) 中国が食料輸入国に 日本は平気か(2月23日)
5) 株式会社で農業効率化できないか(2月25日)
読者の声特集
(特集面)
「農と食」に危機感(2月27日)

※完全自給食について
 996キロ・カロリーは、輸入が途絶した場合に、政府の食料備蓄や食料品の流通在庫を除いて今すぐに国内で生産できる、いわば日本の食料供給の「素の実力」です。
 一方、2020キロ・カロリーは、国の「食料・農業・農村基本計画」に基づいた農業の姿が2015年に実現した場合に、農水省が試算した自給可能なカロリーです。
 試算の前提として、1)2015年度目標の「食料自給率45%」が達成できている 2)米や野菜などの作付けの一部を、よりカロリーの高いいも類などに転換する――などの条件が付きます。作付け転換には時間がかかるので、いざというときにすぐ2020キロ・カロリーが実現するわけではありません。ちなみに2000キロ・カロリーは、昭和20年代後半の供給熱量とほぼ同じ水準になります。
 なお、医師等のアドバイスも踏まえ、体験は「途中断念あり」という緩やかな条件で行いました。

4日間のメニュー一覧はこちら。

関連リンク:
農水省・食料自給率の部屋
JA・全国農業協同組合中央会
gooリサーチ
食と地域を考えるフォーラム
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