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[解説スペシャル]空前のマネーレース

 米大統領選の民主党候補指名争いで、ヒラリー・クリントン上院議員とバラク・オバマ上院議員が選挙資金集めの熾烈(しれつ)な戦いを演じている。テキサス、オハイオ州など4州で4日行われた予備選でも決着がつかなかったことで、空前のマネーレースは今後さらに過熱しそうだ。(国際部・吉形祐司、政治部・尾山宏) )

オバマ氏…ネット献金100万人/クリントン氏・・・大口献金が47%に

■広く薄く

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 「差をちぢめよう! 敵の広告費は190万ドルも増えた」

 4州の予備選を目前に控えた2月末、クリントン氏の公式サイトに、こんな献金の呼びかけが掲載された。

 クリントン氏とオバマ氏が2007年に集めた資金はともに1億ドルを超えた。クリントン氏がやや上回っていたが、序盤戦で勢いづいたオバマ氏が今年1月、クリントン氏の約2倍を集めて首位に躍り出た。危機感を抱いたクリントン氏は、自己資金500万ドルを投じ、支持者に苦境を訴えて、巻き返しに出たのだ。

 米国では日本と違い、政党内の大統領候補を決める予備選や党員集会の資金集めにも法的な規制が課せられる。また、企業や労組による候補者への直接献金も禁じられており、各候補の選挙資金の大部分は個人献金でまかなわれる。このため、企業や労組は「政治活動委員会(PAC)」という献金窓口を設け、個人献金をとりまとめる。2000年の大統領選では、共和党のジョージ・ブッシュ候補(現大統領)が、有権者から個人献金をかき集めることのできる企業の代表らを「バンドラー(束ね役)」として組織化し、注目を集めた。

 しかし、オバマ氏の資金集めの原動力として脚光を浴びるのが、2000年代に入って各陣営が導入し始めたインターネットによる個人献金だ。オバマ氏は、選挙戦当初からネット献金を積極的に呼びかけ、2月末にはネット献金者が100万人を超えたと発表。事前予想では劣勢とされていた資金面で、クリントン氏と互角以上の戦いに持ち込んだ。

 クレジットカードで支払うネット献金の特徴は、大半が小口献金という点にある。各陣営が連邦選挙委員会に提出する収支報告には、ネット献金の分類がないが、民間団体「選挙資金研究所」によると、オバマ氏が集めた1月の個人献金は、46%が200ドル以下だった。一方、クリントン氏は47%が1000ドル以上の大口献金者で、両氏の違いがくっきりと出た。

 「広く薄く」寄付を集める手法は、支持層の拡大という相乗効果も生み出した。同研究所のマイケル・マルビン事務局長は「オバマ氏の選挙戦は、資金集めだけでなく組織化の点でもネット利用で成り立っている。過去にオバマ氏ほど成功した候補はいない」と指摘した。また、オバマ氏には、ネット世代の若者が支持層という利点もある。

■選挙資金の膨張

 米大統領選の選挙資金は増加傾向にあり、前回04年では各候補への献金総額は20年前の約4倍、支出総額は約7倍に跳ね上がった。個人献金には上限がさだめられ、上限はインフレ率を加味して2年ごとに見直される。現在の上限は2300ドル。02年の連邦選挙資金規正法改正で上限が倍増され、選挙資金の増加に拍車をかけたと見られる。

 特に今回は、選挙戦に影響力を及ぼそうとした多くの州が、予備選・党員集会の実施を前倒ししたため、各陣営は資金集めでも“スタートダッシュ”を強いられ、各候補の資金総額は初めて10億ドルを超えると予想されている。また、2月5日の「スーパーチューズデー」で24州の予備選・党員集会が重なり、各陣営の旅費なども膨らんだ。

 こうした巨額の資金が必要とされるのは、旅費や人件費といった運営費の伸びだけでなく、テレビ広告などメディア対策費が突出していることが大きい。全米で効率的に政策を訴えるには、テレビやラジオの広告に頼らざるを得ないからだ。政治資金の流れを追っている民間団体「反応する政治センター」の2月27日のまとめによると、メディア対策費の割合はオバマ氏が33・74%、クリントン氏が25・88%となっている。

 専修大法学部の藤本一美教授(アメリカ政治)は「予備選から本選へと選挙のレベルが上がればメディア対策費は増加する。本選では、各陣営による世論調査も頻繁に行われ、その費用もかさむ」と話す。

■公的助成金

 米大統領選では1976年以降、〈1〉予備選の候補者〈2〉党全国大会〈3〉本選の候補者――を対象に、公的助成金が導入されたが、予備選段階ではクリントン、オバマ両氏ともに受領していない。助成金を受けると支出額が法的に制限され、巨額の選挙資金を自力調達できる候補には必ずしも有利ではないからだ。

 予備選段階の公的助成は、集めた資金額に見合った助成金を受けることができることからマッチングファンドと呼ばれる。共和党候補指名が確定したジョン・マケイン上院議員は当初、支持率低迷で資金集めに苦慮したことから、助成を受けた。しかし、支持率上昇により、資金が集まり始めたことから辞退を申し出て、今年2月に連邦選挙委員会が認めた経緯がある。

 本選に入ってからの約8500万ドルの公的助成金をめぐっては、すでに論争が始まっている。発端は、オバマ陣営の公的助成金に対する姿勢の変化だ。

 オバマ氏は、共和党候補が公的助成金を受領すれば、自身も助成金を得て、支出制限下で選挙戦に臨む意向を示していた。ところが、驚異的な集金力を身につけたオバマ陣営は2月、助成金受領は「選択肢のひとつ。約束ではない」として再考を示唆したのだ。

 これに対し、本選で助成金を受ける意向のマケイン氏が反発。当初から助成金を受けない構えのクリントン陣営も批判の矛先を向けている。

 過去の大統領選では、ブッシュ現大統領(00年、04年)や民主党のジョン・ケリー氏(04年)が予備選段階で公的助成金を受けなかったが、本選では民主、共和両党の歴代候補が全員、助成金を利用した。仮にオバマ氏が民主党大統領候補として指名を獲得した場合、どのような決断を下すのか注目が集まっている。

2008年3月6日  読売新聞)
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