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激戦! 塾・予備校

(6) 「無料講習」全国で火花

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無料の冬期講習を実施する秀英予備校(昨年12月、静岡市で)

 地方でも生徒の争奪戦が熱を帯びる。

 「緊急告知! 受講料無料」。東海4県と北海道、宮城、神奈川、山梨で計221校を展開する大手学習塾「秀英予備校」(本社・静岡)の冬期講習のチラシには、そう大書されていた。「一人でも多くのみなさんに、秀英の授業を体験していただきたいから……」と、書き添えられている。

 公立高受験の指導を中心に、小学生から高校生までを教える秀英はこの冬、東海地方などで、小5〜中2の冬期講習(4〜6日間、5000〜8000円)を無料にした。「ここ数年、新たな地域への進出に力を入れてきたので、既存地域でもアピールしたかった」と諏訪基文・人事総務部長(45)が説明する。

 実は昨年、既存校で生徒数を大幅に減らし、その巻き返しが狙いだった。冬期講習の新規参加者は全社で前年の倍の約1万2000人、うち1月から通年コースに入会した生徒も前年比50%増の約4000人と狙いは効果を上げた。

 秀英は、渡辺武社長(59)が1977年、静岡市内で開いた個人塾が始まり。2002年、東証1部に上場した。ここ数年、一度に新校舎を10校前後建て、講習会の受講料を無料にする戦略で札幌や仙台に進出。地元塾でも受講料を無料にしたため、「0円戦争」と話題になった。

 全国展開を進めるのは、「競争が少ない地方では新規開拓が可能。だが、一番の目的は、教育サービスの質がますます問われてくる中で、優秀な人材を確保したいから」と渡辺社長。進出先は、公立志向が強いことに加え、地元に教育系大学などがあり、新卒生を採用しやすい地域を選んでいる。寡占化が進む業界でトップ3を目指すという。

 実際、一般的に学生バイトや非常勤の講師が多い業界にあって、秀英は講師の100%近い正社員率を誇る。4色のチョークを巧みに使い分け、要所を押さえる授業に特徴がある。

 秀英の進出は、「体力のない地元中小塾の経営を圧迫した」(学習塾関係者)とされる。だが、大手にはまた別の影響も出ている。

 北海道の大手学習塾「北大学力増進会」では、秀英が進出した2005年夏、応戦した無料の夏期講習に、例年の10倍以上の受講生が集まった。増進会を運営する「進学会」(札幌)の平井崇浩・教務本部長(30)は「潜在的な需要に自信を深めた」という。

 進学会は、首都圏や京阪神地区を除く22道県に直営校約420校を展開する上場塾。内申書対策も意識し、中学校の教科書に合わせた自社教材を開発、学校の定期テストも分析する。今年は道内外で新設ペースを加速、3年後には全国500校に増やす計画だ。

 また、仙台圏に30校を持つ学習塾「あすなろ学院」は06年、出版社「学習研究社」(東京)の傘下に入ったが、その翌年の秀英の進出を脅威に感じたことも理由の一つだった。学研の支援を受け、今後は東北全域に事業を拡大したい考えだ。

 地方の塾業界は群雄割拠の趣を見せ始めている。(松本由佳、写真も)

 公立中3年の通塾率は60% 文部科学省が昨春に実施した「全国学力・学習状況調査」によると、学習塾で勉強している公立中学3年生は全体の60%だった。都道府県別では和歌山(74%)、奈良(72%)、三重(70%)、神奈川(69%)、兵庫(68%)の順に多かった。秀英の本拠・静岡は67%と比較的高めだが、進出先の北海道は51%、宮城は53%と全国平均を下回っている。

2008年3月4日  読売新聞)
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