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教育ルネサンス

学校 統廃合(5)

16年かけ「町内1校」に

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午前8時にはスクールバスが続々と到着し、生徒たちが近未来風の校舎に吸い込まれていく

 16年かけて中学校を一つに統合した町がある。

 収穫期のさとうきび畑を縫って、4台のスクールバスが、続々と種子島中部の鹿児島県中種子(なかたね)町立中種子中学校に到着する。人口9600人余の町で唯一の中学校は2004年春、旧野間、南界、星原、増田の4校の統合で生まれた。生徒約260人の3分の1がバス通学だ。

 学校は、南北に約22キロある町の中心部の旧野間中の敷地に新設された。校舎のエントランスはロケットの発射台を思わせるが、実は、町内で発掘された縄文土器をイメージした。内部は多目的スペース。校内にはプラネタリウムも備え、小学生も授業で利用するほか、町民向け観賞会も開く。武道場も備え、体育館の屋根には太陽光発電のパネルがある。総事業費は17億5000万円に上る。

 町が中学校の適正規模について検討する組織を作ったのは1988年。最初から統廃合ありきではなかった。町民意識調査で、比較的規模の大きい中学校は、統合反対の意見が大勢で、一時は2校に統合する案も浮上した。

 だが、95年に発足した審議会が翌年に出した結論は1校への統合。住民説明会を経て99年に統合計画案を策定した。保護者や住民も交え、各校の現状や少人数学級の長短などを学校経営や学力向上などの面から論じあった結果、設備、教員配置、教育内容すべてで、子供たちに等しく教育の機会を与えたいという思いでまとまったのだ。

 「地元の学校がなくなることを寂しがった住民も、長い間じっくりと話すうちに納得した。今ではこの学校が昔からあったような気さえする」。野間中OBで、前PTA会長の消防職員、酒井房幸さん(47)は感慨深げだ。開校当初は旧校区ごとに実施されていたPTAの学校清掃も、今では学年ごとになった。

 数学と英語は習熟度別で、少人数教育の良さを引き継いだ。小規模校から進学する子供たちが人間関係を円滑に築けるよう、道徳や生徒指導にも力を入れる。一方、生徒たちは「友達が増えて楽しい」。集団球技の部活動も人気だ。

 昨年10月からは、文部科学省の「先導的教育情報化推進プログラム」研究校として、3年生が携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」を使い、授業や朝の自習で、英単語の意味や発音を確認するのに活用している。東京のNPO「パソコンキッズ」の協力で、DS65台が貸与された。NPO理事の1人が町出身で、新しい中学校で手を挙げてみてはと提案したのがきっかけだ。

 英語の教科主任の福永準(ひとし)教諭(34)は「学校は設備が素晴らしいだけでなく、保護者の期待に応え、新しいことに挑戦しようとする雰囲気があって気持ちいい」と満足げだ。開校2年目に着任した安楽省吾教頭(46)も「ようやく一つの学校になってきた気がします」。町全体で子供たちの未来を見据える目線が生きているようだ。(松本由佳、写真も)

 小学校の統廃合はせず 鹿児島県内の市町村では、小学校は地域の拠点としての面を重視し、統廃合はしない方針をとる。中種子町でも、小学校7校のうち5校が複式学級を持つが、統廃合の話は出ていない。1市2町がある種子島では、南種子町が1994年、5中学校を1校に統合、西之表市は2009年に6校を1校にする計画だ。

(2008年1月19日  読売新聞)

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