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教育ルネサンス

先生の「夏休み」(1)

土日も懇談や部活

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土曜日の地域座談会で保護者と語り合う長江教諭

 教員の休日出勤は、学校の夏休み中にもある。

 夏休みの空き教室が一気ににぎやかになった。愛知県小牧市立光ヶ丘中学校恒例の「地域座談会」は、7月28日の土曜日の午前10時から始まった。

 保護者らと意見交換する場として、学校が独自に年1回開催している。土曜に開くのは父親も参加しやすくするためだ。今年は父親3人を含む保護者20人が参加。野田芳邦校長ら教員10人とグループに分かれて話し合いを始めた。

 教務主任の長江啓司教諭(48)のグループでは、携帯電話やインターネットの使い方が話題になった。

 「子供が色々なサイトを見て、請求額が5万円になったことがあるんです」「ネットで知り合った同世代の友達に会いに行くと言うので止めたことがある。相手が本当に同世代なのか分からないのに、簡単に信じ込んでしまうんですね」

 保護者が打ち明ける。

 長江教諭は、ネットとの付き合い方を授業で教えたことを話し、家庭でどのような工夫をしているかを聞いた。各グループは、話し合った内容を模造紙にまとめて発表し、座談会は正午に終わった。

 夏は、生徒が地域で過ごす時間が増える。座談会の数日前には、商店から「子供がたむろして困る」という苦情が学校に寄せられたばかりだ。夏休みに保護者と教員が語り合うのは、家庭の役割を再認識してもらう狙いもある。

 職員室に戻った長江教諭は、9月の行事や教員の出張予定などを一覧表にした「週報」をパソコンで作り始めた。土曜は元々休みなので帰宅してもよかったが、仕上げてから帰ることにした。

 週報作りは、教務主任として、先を見て動く上で欠かせない作業だ。「例えば、9月の運動会は土曜なので、別の日を休みにする届け出を事前に市教委に提出しなくてはならない。週報を作ると、いつ何をすべきか整理できます」

 学校という扇の要の位置にいる教務主任は学期中、授業のほか、週単位・月単位の計画作りや、教育委員会への報告書作り、校長や各学年の教師との打ち合わせなどに追われ、毎日のように午後9時、10時まで残業が続く。教員の中で最後に帰宅する日も多い。

 夏休みも様々な書類作りはあるが、分量は減る。その分、秋に提出する市教務主任会用の発表原稿を書いたり、10月に予定している大学での研修に備えた専門書での事前学習をしたりする時間に充てている。午前8時10分から午後4時55分までの勤務時間内に仕事が終わる日が多い。

 28日の土曜は午後3時すぎに週報作りを終え、帰宅の準備を始めた。座談会に出席したほかの教師はもういない。校庭から部活に励む生徒の声が響いていた。

 夕食は家族と一緒 貴重な「充電期間」

 長江教諭個人の夏休みは8月11日から20日まで。元々休みの土曜、日曜を含めて10日間あるが、うち3日は、電子メールのやり取りや書類作りなどをするため、学校に出てきた。家族旅行に行く年もあるが、今年は共働きの妻と都合が折り合わず、見送った。

 個人の夏休みを決めても、そのうち数日間を仕事に充てる教員は珍しくないという。また、地域座談会以外にも、部活指導や祭りの日のパトロールといった、休日出勤を伴う仕事は存在する。

 そうは言っても、「夏は“充電期間”のようだ」と長江教諭。普段、帰宅が遅いだけに、夏は家族と夕食時間を過ごせる貴重な時でもある。「子供たちは年ごろだから、あまり話してくれないけど、やはり家族がそろうとホッとしますよ」

 教員の夏休みは、様々なストレスから解放されるという意味が大きいのかも知れない。(木田滋夫、写真も)

 ■光ヶ丘中 授業作りや校務の効率化でIT活用先進校として知られる。生徒数502人。昨年の連載「先生はなぜ忙しいのか」でも密着取材、11月21〜23日付で取り上げた。

 長江教諭の「夏休み」

 <7月>

 21、22日  部活の大会

 26日     福祉教育サポーター研修

 28日     地域座談会

 30、31日  部活の大会

 <8月>

 2日      教務・校務主任合同研修

 3日      メンタルヘルス研修

 4日      講演会聴講

 6日      IT活用研修

 9日      教職員検診

 10日     生徒指導講演会

 11日〜20日 夏休み

 23日     生徒登校日

 27、28日  職員研修旅行

 中学教員の8割が残業

 学校が夏休みの間、何をしているのか。教員の勤務実態は外から見えにくく、「(教員個々人に)長い夏休みがある」という誤解もある。かつては、個人旅行なども幅広く「研修」扱いに出来た上、「教材研究」の名の下に自宅で過ごすことも多く、事実上の長い夏休みが取れたからだ。

 しかし、文部科学省が今年3月に公表した教員勤務実態調査によると、夏休み中に残業をする教員が、小学校で7割、中学校で8割にのぼった。1日平均の残業時間は小学校21分、中学校33分。夏休み前の平均(小学校1時間49分、中学校2時間26分)に比べると大幅に少ないが、夏休みも、そこそこ忙しいことになる。

 仕事の内容を時間の多い順に並べると、小学校では「研修や研修会場への移動」「事務・報告書作成」「教材作成や教材研究」、中学校では「部活動・クラブ活動」「研修や研修会場への移動」「事務・報告書作成」の順だった。

 学校週5日制の完全実施前は、土曜日の勤務分で、週40時間の労働時間を大幅に上回ってしまうため、不足した休みを夏休みに「まとめ取り」する慣行があった。しかし2002年の完全実施以降は、この慣行もなくなっている。

 夏休みも給与が支払われている以上、学校に来るべきだという社会的な批判もあり、学期中と同じように出勤させる仕組みができた面もあるという。

 実態調査をまとめた東京大学の小川正人教授(教育行政学)は「普段、超過勤務が多いのは、教員の仕事上やむを得ない。その分、夏休み中の勤務時間を弾力化するといった制度面の検討や合意作りが必要だ」と見ている。

(2007年8月21日  読売新聞)

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