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ネット モラル

(12) 相手を尊ぶ33条の憲法

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「e−たより」に北海道修学旅行のリポートを書き込む糸貫中の3年生=谷之口昭撮影

 電子掲示板を使ってモラルを自覚させる中学校がある。

 「宣戦布告」。ネット上の掲示板に、岐阜県本巣(もとす)市立糸貫中学校への“挑戦状”が書き込まれるようになったのは1月下旬。「お前らチキン」「しょぼい」「○日来い」と挑発する言葉が並ぶ。他校生の仕業らしいが、同調して悪口を書く糸貫中生もいるようだった。

 学校や個人への中傷が横行するネットの「裏掲示板」。岐阜市周辺の53中学校についても、裏掲示板を集めたサイトがあり、学校関係者の頭を悩ませている。

 糸貫中は生徒たちに書き込みについて考えさせた。

 「自分は安全な場所にいて相手を傷つけるなんて卑劣」「もう中学生なんだから悪いことだと判断がつくはず」「私は言動に責任を持てる人になりたい」

 生徒の意見は、家庭や地域と結ぶ学校運営の電子掲示板「e―たより」に掲載された。学校は書き込みの削除も要請、やがて裏掲示板は沈静化した。

 「ネット上の問題も実際のトラブルと同様、みんなで考える土壌を作っておくのが重要」と、糸貫中で情報教育を担当する若曽根隆彦教諭(48)は説明する。糸貫中では、ネットを活用することでモラルを学ばせる。2001年度に校内限定の電子掲示板を始め、連絡事項や学級日誌、行事の報告などを生徒が発信、共有してきた。

 その発展形として04年度から始めたのが「e―たより」だ。保護者や地域の人たちもパスワードを持って参加できる電子版の学校便り。修学旅行や合唱祭、地元の福祉施設訪問などの様子を、生徒が動画入りで報告し、保護者の激励や施設からの感謝の声も届く。

 「情報の価値やネットとの接し方を教師は助言する責任がある。ネットの世界を遮断するのではなく、社会に出る時のために練習させておきたい」と若曽根教諭。生徒には学級ごとのパスワードで自由に使わせているが、ふざけた書き込みはないという。

 糸貫中にはもう一つ、よりどころがある。生徒自身が作った「ネット憲法」だ。長崎県佐世保市の小6女児殺害事件を機に、校内掲示板を使う中で感じるネットの問題点を洗い出し、全校で話し合って2年前にルールを決めた。憲法前文には「ネットの向こう側の相手を大切にした使い方を目指す」とうたい、ネットや校内掲示板を利用する際の注意を33か条にまとめた。

 憲法は生徒手帳にはさみこまれている。4月には生徒会情報委員会委員長の中島由貴さん(3年)が昼休みの校内放送で、1週間かけて改めて憲法を紹介した。

 今月5日、3年生のクラスは、前週の北海道修学旅行の様子を「e―たより」に載せる作業に取り組んでいた。小樽でのオルゴール作りについて書く生徒もいれば、友達や先生のアップ写真を「これ載せていいかなあ」と思案する生徒も。若曽根教諭は「北海道に行ったことが伝わるように」と念を押す。「ネットの向こうのだれか」を意識する練習だった。(松本由佳)

 掲示板トラブルへの対処事例 文部科学省が2月にまとめた「いじめ問題に関する取組事例集」でも、電子掲示板のトラブルに触れた例がある。生徒を実名入りで中傷された中学校では、被害者への支援や加害生徒の特定をする一方、警察や教育委員会と連携、生徒指導主事会議で削除の仕方を研修した。事例集では、防止策として、掲示板の定期的監視や、生徒への日常的な情報モラル指導をあげる。

2007年6月13日  読売新聞)
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