YOMIURI ONLINE
教育メニューです
本文です

教育ルネサンス

学校選択(2)

統廃合の影 指導充実で一掃

写真の拡大
勉強の仕方やノートの取り方などのアドバイスをまとめた「学びのススメ」を開く四中の生徒。左奥は石黒校長

 かつての統廃合計画という影を背負った校長たちが奮闘する。

 「少人数なのでいじめも起きにくい。不登校もいませんよ」。東京都荒川区立第二日暮里小学校の吉野一平校長(56)は昨年10月中旬、ひとり自転車にまたがり、来年度の新入生を持つ学区内の約35世帯を回って入学を呼びかけた。

 戸別訪問は、学校選択制が実施された2003年に前校長が始めた。その年の入学者がゼロだったからだ。大きな原因は、2000年に区教委が示した統廃合計画に第二日暮里小が含まれていたことだ。

 計画は翌年、統廃合見直しを公約にした新区長の就任で撤回された。区教委は当面、小規模校も統廃合しない方針だが、「いずれ統廃合されるのでは」という保護者の不安は今も残る。

 吉野校長の戸別訪問から約1週間後。選択制の保護者向け説明会で、ブースに来た母親は「統廃合はないですよね」と不安そうに尋ねた。この日、山村登洋(たかひろ)副校長(46)は同じ質問を4人から受け、その都度「そういう話はありません」と丁寧に答えた。

 第二日暮里小では、少人数を生かし、全学年横断のグループ学習も進める。「最近は少人数教育を評価する親が多くなった」と吉野校長。新年度は約20人を迎えられる見込みだ。

 毎年100人前後が入学していた区立第四中学校も計画で対象校となり、選択制導入3年目の04年には25人にまで減った。

 その年の8月に着任した石黒康夫校長(48)は2か月後、選択制の説明会の光景に驚いた。ステージ発表で四中の順番になると、それまで各校の発表を聞いていた保護者が、次々と席を立ったのだ。

 体調を崩した前校長の後任として他校の教頭からの突然の異動だったが、石黒校長は矢継ぎ早に手を打った。学校案内を新しく作って小学校に配り、ホームページや学校便りも一新。生徒指導では翌年度から、生徒が教員を指名して勉強や部活の相談ができる独自の手法を取り入れた。

 各教科の教員が勉強のコツを書いた約50ページの冊子「学びのススメ」を半年以上かけて作り、今年度の生徒全員に配布。「分数は2行使う」「余白を十分に」などとノートの取り方も紹介されている。区教委から「他校にも配りたい」と要望があったが、石黒校長は断った。「うちの生徒に合わせて作った。教師の思いも詰まっているんです」

 今年度の入学者は47人と、選択制の導入から初めて増加に転じた。「地域住民が口コミで評判を広げてくれた」と石黒校長。新年度に向けた説明会の発表は立ち見が出る盛況で、70人前後が入学する見込みだ。

 ようやく選択制本来の趣旨である教育内容で、学校が選ばれようとしている。(小坂一悟)

(2007年1月17日  読売新聞)

ご意見やご感想、体験談を募集しています