YOMIURI ONLINE
現在位置は
です

鈴木美潮のどんな
本文です
2007年6月15日

気分は「お嬢さん」以上「大人」未満

 当たり前のことですが、人間、突然年をとるわけではなく、毎日毎日を過ごしていって、一つずつ年をとるわけです。ですから、自分が「年をとった」ということは案外自覚しにくい。

 と、いきなり、自己正当化の言い訳のような文章で始めてしまいましたが、本当にそれを最近実感するのです。つまり、42歳である自分が、「年をとった」という自覚に、極めて乏しいわけです。私の場合、子供がいないことも一つの要因ですね。多少の白髪は染めてしまえば、本人だってもうわからないし(笑)、化粧品だって格段に進歩したので、普通に手入れをしていれば、そうそうシワが増えるというものではありません。さすがに、もう10代20代のお嬢さんとは違う、というのは自覚していますが、気分的には30代半ばあたりで止まってしまっているんですよね。図々しいことは百も承知ですが…。

 それが先日、テレビを見ていたら、「43歳のオバサン」という言葉が出てきて、驚がくしてしまいました。そして、驚がくした後、「そうか、世間的にはそりゃそうだな」と、妙な納得をしてしまいました。

 なんと言いますか、私のことはひとまずおいておいたとしても、最近は、40歳代といっても皆さん若い。ファッションや髪型も若いし、それが「若作り」という感じでもない。その年代をターゲットにした雑誌だって、昔、私の母が読んでいた時代は、「夕食の残り物の活用」とか「流しのきれいな磨き方」、あるいは「子供の遠足のお弁当」みたいなものでしたけれど、最近はブランドこそ相応の年齢向けのものが紹介されていますけれど、若い女の子に向けたファッション雑誌と大筋代わりはなく、とっても華やかです。若い子向け雑誌との違いと言えば、「彼氏に愛される服」のかわりに、「外食の時、夫を格好良く見せる方法」みたいな企画がある、という程度です。お嬢さん風のラブリーな服を着こなす「お嬢さん奥さん」なんて記事まであったりします。

 女子大生ブームのころに大学に行き、就職してバブルを味わい、と生きてきた私たちの世代は、その「日本丸ごと若返りの波」に乗って、ここまで来ました。その分、逆に、「年相応」の覚悟というか、「本当はオバサンである自分」を直視しないで生きてきた部分があるんじゃないでしょうか。

 なぜ、そんなことを急に言い出したかというと、最近、ラジオの仕事で美空ひばりさんについて話す機会があり、ひばりさんの芸能生活25周年の時のレコードジャケットを改めてみたところ、あまりの「貫禄」に驚いたからなのです。当時、ひばりさんは34歳。でも、そこに映っているひばりさんは、その年齢よりずっと上に見えます。そしてそれは決して彼女が「歌謡界の女王」だったから、というだけではないように思えるのです。経験を重ね、さらに覚悟を重ねてきた「大人の顔」がそこに映っているから、年齢よりずっと上に見えるんじゃないか、とまあ、そんなことを思ったわけです。時代劇の中の16歳のサムライが、現代の16歳よりずっと大人びているのと同じようなものですね。

 そこで、我が身について考えてみると、まさに「お嬢さん」を通過しても、読む雑誌も取り巻く環境も、なんとなくその空気の延長上にいるわけです。いや、私が思っているだけかもしれませんが(笑)。外見はともかく、少なくとも本人の気分的には、ということなのでご容赦ください。「大人」にならずに「大人」期も中盤にさしかかっている、とでもいうのかな。

 不老長寿と言う言葉があるくらいですから、若くいられることは、もちろん幸せなのだとは思いますが、一方、人間の寿命自体は、そう飛躍的にのびるものでなし。このまま「若さ」の延長上にいることは、果たして本当に幸せなのか、とか、あるいは、いつまでもこんな「幸せ」が続くはずないよなあ、とか、ひばりさんの歌を聴きながら、もろもろ考えてしまうのでした。

 ちなみに、6月は私にとって、ひばりさんの月。24日がご命日です。

トラックバック
現在位置は
です