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2007年6月12日

目をそらさず自殺問題考える


映画「ブリッジ」では、カメラが1年間、橋を撮影し続けた(c)2005EASY THERE TIGER All rights reserved

 19歳でアメリカに留学した際、飛行機の中から一番最初に目にした「アメリカ」が、陽光にきらめくサンフランシスコのゴールデンゲート・ブリッジだった。全長2790メートルの美しい橋が、これまでに約1300人が命を絶った「世界一の自殺スポット」であることを、映画で初めて知った。

 この映画のタイトルは「ブリッジ」(16日から恵比寿ガーデンシネマ他にて全国ロードショー)。エリック・スティール監督が、2004年から05年にかけて、カメラを橋の近くに据え、「橋桁(はしげた)に足をかけた人を見かけたらすぐに通報することをルールとして」撮影したものをまとめた異色ドキュメンタリー映画だ。

 天を仰ぎ、あるいは十字を切り、宙に身を投げ出す人々の映像は衝撃的だ。さらにカメラは、彼らの家族や友人に迫り、「どんな人物だったか」「なぜ自殺したと思うか」「止めることはできなかったのだろうか」と尋ねていく。

 自殺を決意し、橋から飛び降りたものの、未遂に終わった青年の証言もある。「欄干から手を離した瞬間、突然、死にたくない、と思った」と彼は語る。空中で、「もう無理だ、僕は死のうとしているじゃないか」と思いながらも、何とか生きようと体勢を変え、足から水に突っ込み、一命を取り留める。現在の彼は、神に生かされたと信じている、と語るのである。

 映画の中に、「どうすれば自殺を防げるか」という「正解」は、ない。正直、映画を見終わった私も、どうしたら自殺を予防できるのかわからない。だが、目をそらさずに自殺という問題を見つめ、考えることこそが、少しずつではあっても、問題解決につながるのではないだろうか。

 警察庁のまとめによると、日本では9年連続で1年間の自殺者が3万人を超えた。社会全体で自殺予防に取り組むことが求められる今、多くの人に見て、そして、一緒に考えて欲しい映画である。

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