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鈴木美潮のどんな
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2007年1月16日

陰惨な事件の根に何がある


1月から新たに「donna」に登場した寺島淳司アナ(右)と鈴木記者

 5年前のこの季節、平日の昼ごろだった。

 人通りのない住宅街を歩いていたところ、工事現場前の路上で、工事関係者とおぼしき3人の若い男が、年配のやせた男を殴りつけている場面に行き当たった。殴られた男は抵抗せず「ごめんなさい」を繰り返すが、若者は激高して、腹に蹴(け)りを入れている。

 年配の男は粗末な身なりで、いわくありげ。反射的に「かかわり合いになりたくない」と思い、目を背けて大通りに出た。

 だが、その瞬間、戦隊ヒーローや仮面ライダーの姿が、頭に浮かんだ。弱いものいじめや暴力がいけないというのは、ヒーローが説き続けてきたこと。白昼の暴力を見て見ぬふりして、どこがヒーローファンか。

 自分の行動を、恥じた。かといって腕に覚えもないので、近くの交番を目指して走った。幸い、居合わせた警察官はすぐ現場に向かってくれ、私は連絡先を残し、仕事に向かった。

 その夜、帰宅したところ、家人に警察からの報告が託されていた。

 それによると、殴られていた男性はホームレスで、工事現場から弁当を盗もうとして見つかったのがけんかの理由とのことだった。「ホームレスですから」と、警察の人は繰り返したそうだ。

 おそらく、地元住民がいきなり工事現場の人に殴られたような事案ではないから安心してください、ということを警察の人は伝えたかったのだと思う。

 しかし、「ホームレスですから」という一言が、私はずっと気になっていた。

 昨年暮れ、少年たちがホームレスを襲撃し、殺害する事件があった。事件の深層に、「ホームレスですから」的な空気があったのではないだろうか。

 年明け早々、陰惨な事件が続いている。事件の根に、いったいどんな社会的風潮があるのか。考えていかねばならないと思う。

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