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鈴木美潮のどんな
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2006年1月31日

喧嘩なら勝たなければ


山下美穂子アナ(左)に、『外交を喧嘩にした男』をすすめる鈴木記者

 『外交を喧嘩(けんか)にした男―小泉外交二〇〇〇日の真実』という本が出版された。本紙に約半年間連載された「政治の現場―小泉外交」をまとめたもので、外交の舞台裏をくわしく紹介している。

 政治部員に配布された本を開いてみて、すっかり引き込まれてしまった。外交の舞台裏自体の面白さもさることながら、同じ記者の立場で同書を読むと、同僚記者の苦労が手に取るようにわかり、感慨深いのだ。

 たとえば、2003年の日米首脳会談。小泉首相はブッシュ大統領に「北朝鮮問題の平和的解決のためには『対話と圧力』が必要だ」と述べている。この発言は、記者会見でも公表された。

 だが、その際、首相が「圧力」という言葉をなかなか口にせず、同席した安倍晋三官房副長官が発言要領の「圧力」という文字に赤線を引いて渡し、ようやくそのキーワードに言及した、という事実は、関係者への取材を重ねないと出てこない。そんな取材の積み重ねがぎっしり詰まっているから、堅いテーマなのに、小説のように面白い。

 ただ、小説と違うのは、どの案件も、未完の状態にあるということ。特に、日朝間には、拉致という「困難な問題」が未解決のまま横たわる。

 タイトルに「外交を喧嘩にした」とある。「火事と喧嘩は江戸の華」ともいうが、華やかに打ち上げるだけでは仕方あるまい。喧嘩にしたなら勝たなければ意味がないと、読後、痛切に思った。

『外交を喧嘩にした男―小泉外交二〇〇〇日の真実』 読売新聞1面・政治面に、2004年11月から05年6月まで連載された記事に追加取材を加筆してまとめた。日朝外交、日米外交、日中外交の3部構成。新潮社(1575円、税込み)から発売中。

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