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小学校で

<1> 読書好き、でも授業中は…

 A子は、小さいころから物語を読むのが大好きで、暇さえあれば本を読んでいたそうだ。小学校3年生のころには、図書室の低学年用の本はすべて読んでしまっていたらしい。

 そんなA子を担任したのは5年生の時。A子は私に、「今読んでいる本は、昨日借りたばかりだけど、今日中には読み終わってしまうかも」などと話してくれた。私は「すごいわね。面白そうだから、私も読んでみようかな」と答え、彼女の読書量に感心していた。

 ところが、ある日を境に、A子は授業中にも本を読むようになってしまった。掃除の時間にも、担当の掃除場所に行かずに、隠れて読んでいることもあった。

 注意しても、本を取り上げても、また翌日には同じことを繰り返す。その度に、授業中は読んではいけない、本を読むのは休み時間だけ、ということを指導するのだが、「誰にも迷惑をかけていません」「勉強は塾でやっているので、学校の勉強は大丈夫」などと言う。こちらの話がA子の心に届いていない。

 保護者にそのことを伝えると、中学受験のための勉強に集中するため、家では本を読んではいけないことにした、という返事が返ってきた。A子は、家で本を読めなくなったことで、たとえ注意されてもいいから、学校でとにかく本を読みたい、という気持ちを抑えられなくなっていたようだ。

 A子とは、その後何度も話し合い、授業中は読まない、という約束をした。

 それでも結局、その約束はA子が卒業するまで何度も破られてしまった。受験勉強に一生懸命取り組み、目標にしていた学校に合格したA子は、笑顔で卒業していった。

 卒業後も、時々学校帰りに小学校に顔を見せに来てくれた。いつも彼女のカバンには、教科書と一緒に、ずっしりとした物語の本が入っていた。(京)

 筆者は、小学校の女性教諭です。

2007年7月9日  読売新聞)
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