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ビール値上げ 苦い春

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2月のキリンに次いで、3月にはアサヒも出荷価格を値上げし、ビール需要の減少が懸念される(1日、東京・江東区のマインマート南砂店で)=多田貫司撮影

客離れ心配 据え置く店も

 最近、様々なモノの値段が高くなっている。ビールも例外ではない。アサヒビールは1日、卸売業者への出荷価格を値上げした。18年ぶりのことだ。

 キリンビールは2月に値上げし、4月にはサッポロビールとサントリー(缶以外)も後を追う。晩酌用の缶、ビンだけでなく、飲み屋の勘定にも響きそうで頭が痛い。(経済部 山下福太郎)

 ■総出荷量「減る」

 アサヒの出荷価格引き上げを機に、都内のある酒販店はその日のうちに販売価格を切り替えた。2月にキリンが仕入れ価格を上げたことで、あちこちの小売店で値上げの輪が広がりつつある。

 ビール類はオープン価格なので、ビールメーカーは店頭での具体的な値上げ幅を示していない。今回の出荷価格値上げで小売価格は5%程度上がると言われている。

 ビールのまとめ買いによく行く都内の大型酒販店の店長は深刻そうな顔だ。「消費者は価格に敏感。2月のキリンの販売数量は前年より2割減と、予想以上に落ち込んだ」

 キリンの24本(350ミリ・リットル缶)入りケースは4270円と、1月より200円高い。アサヒの商品も3月中から値上げするつもりだ。

 飲む側は懐と相談して飲むようになる。だからビール会社も、今回の値上げが買い控えにつながらないかと心配している。

 ビールと発泡酒、第3のビールを合わせた今年のビール類飲料の総出荷量は、どの社も減ると予想。販売目標もサントリーを除く上位3社が前年割れの数字を掲げる。強気一辺倒のビール業界では異例なことだ。

 業界内の競争は激しい。07年出荷量でアサヒの市場占有率(シェア)は7年連続で首位だが、2位キリンと0・1ポイント差、3位のサッポロとサントリーの差も1・5ポイントとわずか。酒税が改定された時を除いて18年間も値上げしなかったのは、各社が利益よりもたくさん売ることを優先してきたためだ。

 ■小売店、飲食店では

 出荷価格が上がっても、小売店や飲食店の値段は「値上げ」と「そのまま」に分かれる。店も顧客離れが怖いから、すぐに値上げできないこともある。

 セブン―イレブンやローソンなどコンビニエンスストア大手はキリンを値上げした。「帰宅途中に1〜2本買う人が多く、価格を気にする人はほとんどいない」(大手広報)からだ。

 居酒屋チェーンがジョッキやグラスで出すビールは、もともと仕入れ価格と販売価格の差が比較的大きい。出荷価格の値上げを売値に転嫁するか、利幅を圧縮して価格を据え置くかはその店の胸一つだ。

 ファミリーレストラン最大手のすかいらーくグループは「卸値が上がったので店でも値上げせざるを得ないが、最小限にとどめた」と説明する。デニーズは当面、値上げしないという。ビール各社の値上げへの対応について、大手スーパーのイトーヨーカ堂は「未定」、イオンは「商談中」としている。

 ビールはスーパーや酒販店の目玉商品だけに、小売店が卸業者の値上げ要請を拒否するケースもある。その代わり、小売店は値上げ前に大量に仕入れた。

 ある小売業者は「1月末はキリン、2月末はアサヒの商品で倉庫がいっぱいになった」と話す。ただ、いつまでも値上げを我慢できないだろう。

「発泡酒」「第3のビール」各社期待

 ■ビールは5割

 07年のビール類の総出荷量はピーク時の1994年から13%も減少した。全体に占めるビールの割合は55%まで減った。今回の値上げで「より安い発泡酒や第3のビールの割合が増え、ビールが近い将来半分以下になる」(大手酒販店)という声もある。

 ビールと発泡酒は麦芽の使用比率で分けられる。国税庁によると、ビールは麦芽が約67%以上、発泡酒は約67%未満のものだという。第3のビールは麦芽の代わりにエンドウたんぱくや大豆などを使うのが主流だ。

 350ミリ・リットル入り缶1本の価格のうち、ビールは4割、発泡酒は3割、第3のビールは2割程度が酒税だ。特に発泡酒は、94年の発売当初は税率が低く「節税ビール」と呼ばれた。

 現在、発泡酒の酒税は、麦芽使用比率50%以上はビールと同じ77円、25%以上は62円、25%未満が47円。ビール大手の発泡酒の大半は税金が最も安い麦芽25%未満の商品だ。

 麦芽が少ない方が安く販売できるため、ビール各社は発泡酒や第3のビールの開発を競っている。

 サッポロは「糖質ゼロ」の発泡酒を急きょ4月に発売することを決め、大手4社に「糖質ゼロ」の商品がそろった。健康志向の高まりを利用して、少しでも売れる商品をという思いだ。

 ただ、ビールに比べ発泡酒や第3のビールは利益の割合が少ない。低価格商品への移行は、ビール会社が自らの首を絞めることにもなりかねない。

買う店よく考えよう

 平日は発泡酒や第3のビールを飲み、週末はちょっと割高なプレミアム(高級)ビールを飲む傾向があるという。日常生活の中でビールはささやかな楽しみとして定着している。

 日本人の成人1人当たりの年間消費量は350ミリ・リットル缶で約140本分だ。値上げ分が完全に価格転嫁されると、年1000円以上の出費増になる。もちろん、もっと飲む人はもっと痛い。

 今回の値上げで、これまで各社同じだったコンビニでも価格に差がつき始めた。これからは、どの店でビールを買うか、よく考えよう。

 オープン価格

 メーカーが希望小売価格を示さず、小売店に自由に決めてもらう価格。実勢価格とかけ離れた希望小売価格の設定が問題となり、公正取引委員会の指導がきっかけで家電や化粧品などで広がった。ビール類は2005年1月から導入された。

2008年3月2日  読売新聞)
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