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イラン たった1人の老年病専門医


携帯電話で患者の家族からの相談に応じるベイザイさん

 テヘラン市内にある診療所で、イラン初の老年病専門医として知られるフーシャング・ベイザイさん(76)を取材した。この日は祝日だったが、取材中も老医師の携帯電話が鳴る。患者の家族から電話がかかってくるのだ。

 「心配いりませんよ。症状がひどくなるようなら、薬を飲ませてください」とベイザイさん。電話を切ると、「高齢者の面倒を見るのが大好きなのです」と、優しい笑みを浮かべた。

 祖父と兄が医師という家庭に生まれ、母の強い勧めで医師の道へ。当初の専門は内科だったが、1970年に渡英し、老年病学に出会った。当時、イランに老年病の専門医はおらず、新しい分野を専門とすることにひかれたという。

 イランは、人口約7000万人の約6割を30歳以下が占める「若い国」。だが、高齢化は確実に進み、10年後には60歳以上人口が1000万人の大台に乗るとされる。大都市では、高齢者の世話を家族がする伝統にかげりがみえる。

 ベイザイさんは帰国後、診察にあたる一方で、ラジオにも積極的に出演。高齢者向け専門医療の必要性を訴えてきた。おかげで、老年病学の講義を行う医学部が増え、保健省に専門部局ができるなど効果は出ている。

 食事に細心の注意を払うなど体調管理に余念がなく、「引退なんて考えたこともない」。医療への情熱は、老いてなお燃えさかっている。

 だが、老年病の専門医は、今も国内に1人だけ。「苦労の割に報酬が少ない」(ベイザイさん)分野で人材確保が大変なのは、日本だけではないようだ。(テヘラン 工藤武人、写真も)

2008年2月26日  読売新聞)
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