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教育ルネサンス

教育県 検証(2)

進学率アップ 道半ば

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上田高校には、参加者増をねらい、補習授業の開講状況を示す時間割が記されていた

 教育県の看板を立て直す取り組みは長期にわたっている。

 長野県東信地方の進学校、上田市の県立上田高校で1月26日、今年度14回目の土曜授業が行われた。保護者らに授業を公開する名目で今年度から始まった正規授業。2月にもう1回実施される。

 同高の進学対策は多岐にわたる。入学直後の学習合宿、夏休みの進学対策の補習、2、3年生向け小論文指導、2年時の大学訪問――。普段の補習は、玄関近くの黒板に時間割が出来るほど日常的になっている。

 長野県教委は1990年代から、大学教授の講義を受けることで意欲向上を狙う高大連携講座、学校独自の教材開発支援、専門高校の学力向上策に取り組む拠点形成事業など、多様な対策を取ってきた。上田高校の学習合宿や夏休み中の補習も県の施策として打ち出された。学習合宿は富山県を参考にした。全国各地の事例をもとに組み立てた施策も多い。その理由は一つの論文にさかのぼる。

 長野県の4年制大学への現役進学率は1989年、11・5%と全国ワースト2を記録する。翌年、長野県出身の耳塚寛明・お茶の水女子大教授(当時は講師)が、教員の職能団体「信濃教育会」の機関誌「信濃教育」に難関大への進学率の低さを指摘する論文を寄稿。議会や経済界を巻き込んだ学力論争が起きたのだ。

 それまで、長野県は進路指導に熱心とは言えなかった。教育県の伝統から「知徳体の調和の取れた『全人教育』」の理想を掲げ、軽視されてきたとさえ言える。上田高校の藤本光世(こうせい)校長も「私自身に、進路指導なんて高校がやるものではないという意識があった」と振り返る。

 県教委は91年から、大学進学実績の向上を目指した事業を始める。学習合宿や長期休業中の補習授業はこの時からスタートした。

 準備段階では、富山、石川、栃木などの進学校に視察団を派遣した。各校も独自のつてで全国各地の高校を回った。富山県の進学校で進路指導に当たった経験のある教師が「長野県の先生は何度も来て、細かい点まで聞いていかれたことを覚えている」と振り返る。

 最近、注目を浴びているのが、06年度から始めた予備校講師による秋の「伸びる力養成講座」。県教委主催の無料講座で、センター試験対策、国公立大記述問題対策などのメニューがある。県内2か所で参加者は予想を上回る計約400人。新年度は開催場所を増やす方針だ。

 教師からは「進学県イコール教育県なのか」と疑問の声も上がるが、「進学実績か全人教育の二者択一ではないはず。まだまだ課題は多い」と県教委の山口利幸教育長。07年の現役進学率は全国30位(38・1%)。県議会で「かつては教育県と言われた長野県」というフレーズが今も飛び出す。ゴールは見えそうにない。(宮本清史、写真も)

 大学進学率 文部科学省の学校基本調査によると、全国の短大を含む大学進学率は2007年で51.2%。都道府県別では京都の63.0%から沖縄の33.5%まで開きがある。長野は47.9%で26位。4年制大学に限ると、長野県の進学率は、この15年ほどで3倍になったが、全国平均とは5〜7ポイント前後開いたまま。ただ、大学全入時代にこうした比較の意味は薄れているとも言えそうだ。

(2008年2月14日  読売新聞)

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