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教育ルネサンス

学校 統廃合(20)

【読者の声】魅力ある未来像示して

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7小中学校を統合した新設校舎をどんな設計にするか、意見を出し合う京都市東山区内のPTA代表ら

 統廃合を身近に感じる読者は少なくない。

 「勉強はもちろん、人間関係の難しさに悩みます。一度何か起こったら逃げ場がない」と不安を訴える母親からファクスが届いた。連載では、複式学級のある学校が何度も登場、小規模校の教育の工夫も紹介してきたが、来春、子供が通う小学校で複式学級ができそうで心配だという。

 「義務教育なのだから、どの地域でも、同じ質の教育が受けられなければならないと思う」のは確かだが、現実はそうではない。

 「この地域では良い教育が受けられないと思った段階で、若い人たちはその地域には戻ってこないと思います」。統廃合問題の重さはここにある。

 自分の通っていた学校が数年前に廃校になった鳥取県の女性は「生徒が来るのを待つだけでなく、都会から集めるくらいのことを自治体も考えて」と訴えた。

 小学校4年から高校卒業まで北海道夕張市で過ごしたという埼玉県在住の女性(63)は、昨年、中学校の同窓会に出席した際、学園祭の最中だった地元の高校を訪ねた。「卒業生も一緒になって学園祭をやれればいいね、と同窓生と話し合いました。夕張再生の歯車になるつもり」と財政破たんで苦しむ古里への思いを手紙につづった。

 一連の記事を「自治体に出す意見の参考にしたい」と記したのは千葉県成田市の男性だ。同市でも、小規模な小中学校が増え、学校の適正配置について市民の意見を募っている。

 「地域から学校が消えることは大事件。地域住民の理解を得るには誠意ある説明の必要がある。上意下達、結果ありきの説明は避けなければならない」「住民に魅力ある姿を示す必要がある。子供たちが自分の地域や母校の伝統を誇りに思える統合が、理解を得る一つの選択肢だろう」

 統廃合の議論には、こうした点とともに、将来、学校に通わせる保護者の視点をくみ取ることも忘れないでほしい。(茂)

 

住民合意へ 対話努力を

 学校作りは町作りの根幹だという思いを強くした。特に印象的だったのは住民主導の学校統合が進む京都市(1月17日付など)だ。

 小中学校7校を統合する新設校について、PTAの代表らは、校舎の設計案を見ながら「自習ができる静かなスペースが欲しい」「南向きの温かい教室で学ばせた方が集中力が高まる」と踏み込んだ意見を出し合っていた。

 学区の自治連合会長のまとめ役、田中博武さん(62)は、PTA側が統合の検討を持ちかけたとき、自治会が全面支援することを約束したという。「やはり学校は子供のためのもの。自治会の役目は、最も子供に近い保護者の望む方向へ住民をまとめることだと思った」

 京都は明治初期、「番組」と呼ばれる自治組織ごとに町衆が私財を投じ、小学校を開校した歴史がある。学校は地域のものという住民意識が特に強く、地域社会の成熟ぶりも感じた。

 大都市、過疎地を問わず、「小規模化した学校には子供を通わせたくない」と思っている保護者は多い。一方で、「学校がなくなると地域が衰退する」と考える住民もまた多い。少人数でも地域に密着した学校に魅力はあるが、住民間の対立を懸念して小規模校の問題解決をたなざらしにしている地域もある。「統廃合の話を持ち出すのは腫れ物に触るようなもの」と漏らした教育長もいた。

 ただ、PTAや町内会の代表らで構成する組織が、全会一致を原則として約2年間議論を続けた例(2月5日付)もある。学校設置者の自治体には住民の円滑な対話を促す努力が必要だ。(高橋敦人)

 次週から「教育県」と呼ばれる自治体の取り組みを検証します。

(2008年2月9日  読売新聞)

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