ディズニーでは初めて未来を描いた映画ということですが、それはなぜですか? これまでに観客のみなさんをこれまでに行ったことのない場所にお連れしようと考え、初めて未来を描きました。その未来というのは、希望に満ち溢れ、とてもきれいな色で構成されており、「バブル」という機械でどこへでも瞬時に移動できる、というものです。 ルイスが本当に発明したかったのは「家族」かもしれないというキャッチフレーズにせつなくなりました。ドロシーさんの家庭はどんな家族でしょうか? 私はロビンソンと同じく大家族の出身で、みんなが同時に話し始めるような、にぎやかであたたかい家庭で、大きな心を持ち、とても絆の強く、何か起こったときにでも、互いに助けあい、受け入れあう家族でした。 ジョン・ラセターディズニーの最高クリエイティブ責任者に就任して初めての作品となることにも注目が集まっていますが、ラセターが参加したことで、変化した部分はありますか? ジョン・ラセターが参加したのは、すでに製作が始まってから約3年経ってからでしたが、彼は私たちに映画製作に対する情熱や知識をもたらしてくれました。 初めてウォルト・ディズニー以外の映画製作の知識を持った者が、私たちのスタジオトップに立ったのです。現代版のウォルト・ディズニーがジョン・ラセターだと思うんです。それは、大きなことでしたね。彼はアニメーションが好きで、子ども的な側面も持ち合わせています。ストーリーに対し、彼のダメ出しも受けつつ、何度も意見を出し合った結果、当初予定していた結末とは違うものになりましたが、彼のサポートにより、大変すばらしいものになったと思います。 長年、子育てをしながら忙しく仕事をされていると思いますが、家族との時間で大切にしていること、子育てで心がけていることはありますか? 私にとって家族は大事だということは間違いありませんが、家と仕事は完全に分けるとうことを心がけています。夫も同業者ですが、家の中で夫とは絶対に仕事の話はしないというルールがあります。 夫と話すのは学校や教育に関することですね。子どもたちがどのような教育を受けているのかが、重要です。子どもたちが、学校で何をしているか、人生で何をしたいのかなど…家族との時間は質の高いものですね。 同時に私自身ディズニー・ファミリーの一員でもありますし、よくディズニーランドへも行きますし、週末はずっとそこで過ごすこともあります。 今回の来日は家族も一緒ですが、子どもが初めて日本文化に触れるということをうれしく思っています。日本のみなさんは、人を尊重し、尊敬の念を持つということに長けています。そういった日本人に染み付いたすばらしい日本文化に触れることは、彼らにとっていい経験だと思いますし、また、今回の来日でたくさんのことを学んでいると思います。 1980年から長い間ディズニーでのキャリアがありますが、幼いころからディズニーが好きだったのですか?また、特定の作品に対し、思い入れはありますか? 子どもの頃からディズニーが大好きで、ディズニーと共に成長してきました。私自身は絵を描くことはできませんが、アーティストが作り出す作品に魅了されています。 私の夫も2Dの手書きアニメーターで、義理の父もサム・マッキムといい、ディズニーではかなり有名で「ホーンテッドマンション」のポスターを書いた経験のある、伝説的な人物です。息子も絵がうまく、いつもアートに囲まれて生活しています。ディズニー作品の中では「ジャングルブック」や「美女と野獣」が好きですね。 日本のアニメから受けた影響はありますか?もしあれば、それは何ですか? 私は宮崎駿監督の大ファンで、手書きのアニメーションが好きで、彼のキャラクターデザインは感情の出し方など、シンプルでありながら高度で洗練された表現であると思います。彼の作品には常に何かメッセージがこめられています。私はそれが好きですね。 そして、宮崎監督をはじめとした日本のアニメは、目に特徴があると思います。キャラクターの目にハートや魂があるなと思います。 今回の作品には7人の脚本家がクレジットされていますが、先ほどのラセター氏のダメ出しがあってのことですか?ストーリーを作り上げていく上でのご苦労は? 7人のうち5人は ストーリボードアーティスト(絵コンテ)で、残りの2人がいわゆる脚本家です。ジョン・バーンスタインがメーンストーリーを書いて、ミシェル・スピッツはギャグなどの色付けをする役目です。 スティーブン・アンダーソン監督を中心にとても仕事がしやすかったです。 アニメ映画におけるプロデューサーの役割、苦労した点を教えてください。 プロデューサーとして350人の映画製作チームを3年半束ねるということが大変でした。長期間に渡る仕事でしたが、彼らにも楽しんで働いて欲しかったし、あくまでもこれはアニメーション映画なので、あまり深刻になりすぎてもいけないし、ひとつのアイデアにとらわれすぎてもいけないと思います。 常にある程度の柔軟性を残して、何かがあったら方向転換するとかが大変でした。今回は人間が主人公の映画でしたが、これは大きなチャレンジでした。人間ということが認識してもらえないといけないし、かといって写実的に近くなりすぎても、実写のようになってもいけないし、アニメーションという要素を残すということに気を使いました。 (プロデューサーとしての)私の仕事は、チームが有能な人材であふれていたので、結構やりやすかったです。ぜひ次回作も、スティーブン・アンダーソン監督のチームでもプロデューサーをやってみたいです。 今回は未来を描きましたが、次回作についてなにか構想はありますか? それは、まだ秘密よ(笑)映画製作にとって、観客のみなさんがいままで体験したことのないようなところにお連れするということが重要です。 ファインディング・ニモでは、水の中に、モンスターズ・インクでは子どものころぬいぐるみがしゃべったら怖いだろうなということを表現し、カーズでは、車の世界を、トイズ・ストーリーでは、おもちゃの世界と…そういった意味ではピクサーは長けています。 また、美女と野獣、ライオン・キング、リトル・マーメイドといった作品を通じて、ディズニーの原点である、空想、ファンタジー、魔法の世界に戻りつつあります。次回作も原点に返る、みなさんが行ったことがない世界にお連れするということに落ち着きたいと思います。 今回ジョン・ラセターが参加したことで期待しているのは、お仕着せでの台本はなく、監督自身の持つアイデアをどんどんジョン、周りの者に伝えていって、それを作品に取り入れて、映画にしていきます。 スティーブン監督は、次回作のために3つのオリジナルアイデアを持っています。その中からどれかを落とし込んで作品を形にしていきます。 ご多忙だと思いますが、ドロシーさんが発明家だとしたら何を発明したいですか? 「バブル」ですね(笑)今渋滞の中を1時間くらいかけて会社に行っていますから。 セリフの中にウォルト・ディズニーの言葉を引用して、彼をリスペクトしているような部分がありますが、それは白雪姫の公開70周年ということの影響ですか? 日本での公開日12月22日はくしくも70年前の白雪姫の公開の1日後ということです。手書きの時代からずっとアニメの仕事をしてきましたが、CG全盛の時代でも、出発点は忘れちゃいけないと思います。 親探しということで、スティーブンと主人公のルイスの生い立ちが似ていて、スティーブンは常に前に進み続けるということをテーマにしてきましたが、製作を初めて2年ぐらい過ぎて、偶然ウォルト・ディズニーも同じことを言っていたということがわかりました。ルイスは未来を作るという点でも、ウォルト・ディズニーと通じる部分があります。今回私たちが描いた未来は、子どもの目線から見た未来ということです。 10月4日、ペニンシュラ東京で(ヨミウリオンライン 聞き手・遠山留美、撮影・栗山倫子) |