子どもの身近に存在する
ネット犯罪の火種
筆者には高校1年生の女の子と、中学2年生の男の子がいる。その長女の友人(ここではA子としておこう)が、近ごろ「ネット犯罪」に巻き込まれそうになったという。
最近では、高校生ともなれば携帯電話だけでなくPCも使いこなせる。A子もそんな1人で、PCを使ってWebブラウジングやWebチャット、さらに自分でインストールしたSkypeで音声チャットを楽しんだりしている。もちろん、ケータイメールなどはお手のもの。A子いわく、この程度が「ごく普通の女子高生レベル」なのだそうだ。
先日、A子はチャットを通じてある女の子と親しくなった。お互いにケータイのメールアドレスを交換し、さらに顔写真も送りあって、たった2週間ほどで親密な関係になった。電車で1時間圏内に住んでいるという相手とは、休日にどこかで遊ぼうという話にまで発展した。ここまではどこにでもある「ネット友達」作りのパターンだろう。
実際に会う約束がまとまったころ、その女の子からA子へ写真付きメールが届いた。見ると、それはバストがアップになった裸体の写真だった。「私の胸…ちょっとちっちゃいけど…」という文章も添えられている。不審に思ったA子が「なんで裸の写真なんか?」とメールすると、「だってA子さんが本当に女性かどうかわかんないから…」との返答。自分が先に送るから、A子にもバストの写真を送れという。
さすがにA子もためらい、話をそらしているうちに、相手は徐々に「あなた本当に女の子? 女の子だったら写真送れるはずだよ?」と追求してくる。「以前メールで親しくなった『女の子』が、実は男の子だった」とかで、「女の子である証拠」としてバストの写真を送るよう強要し始めたのだ。このあたりからA子も「電話で話をすればいいだけなのに、どうも怪しい」と感じ始める。
そう、これは実のところ、女子高生のフリをした男性がセミヌード写真を入手し、それを脅しのネタにしようとする事件の前触れだったのだ。幸い、A子の場合は大事に至らなかったが、もしセミヌード写真を送っていたら「この写真を友達や近所にばらまくぞ」と脅迫され、肉体関係を強要されていたかもしれない。あるいは、売春や万引きといった犯罪へ加担させられていた可能性すらある。
「ネット犯罪」など遠い世界のことかと思っていたが、こんな身近にも犯罪の火種が転がっていたとは、驚きだ。
ネットで加速する「いじめ」
その手口は巧妙で陰湿
インターネット上で子どもが遭遇する「危険」といえば、「出会い系サイト」が最右翼のように思われている。だが、これは事件として報道されるケースが多いだけのことで、実際にはさらに深刻な問題が存在している。それは、ネットを使った「いじめ」だ。
最も単純なのは、電子メールにひぼう中傷のことばを書き連ねて送りつけるものだ。ただ、これは送った側のメールアドレスが証拠として残るため、現実にはあまりないらしい。いじめる側は、より巧妙で陰湿な手段をとる。
最近はスパムメール対策として、どこの携帯キャリアでもメールアドレスを簡単に変更できるサービスを提供している。いじめる側はこれを悪用する。メールアドレスをXからYに変更する際に、いったんZというアドレスに変更し、このアドレスで中傷メールを送りつけるのだ。そして、毒を吐くだけ吐いたあと、何食わぬ顔でYというアドレスに変更するのである。
途中のZはいわば仮アドレスなので、名前そのものに悪意のあることばがつづられることも多い。「akuma@…」とか「shine@…」とかいったアドレスから、ひどいことばのつづられた携帯メールを受け取った子どもの心中はいかばかりか。単なるスパムメールと受け流せる内容ならまだしも、そこに同じクラスの子どもだけが知りえる情報が書かれていたら、心に大きな傷を負うことは間違いない。
ネットの匿名性を悪用したいじめの手口はまだまだある。いじめられる子のメールアドレスをかたって掲示板に書き込みをしたり、写真や動画を撮って学校中に携帯メールでばらまいたりする。それをネタに脅迫し、不良行為に引き込んだり、いじめに発展したりする例もあったという。もっとも、その実態はなかなか把握できない。
「メールづきあい」が悪ければ
いじめの対象に?
ネットでのつきあいがこじれ、いじめに発展するケースもある。近ごろの仲の良い子どもどうしは、いつでも携帯メールでつながっている。「親との会話よりも友達とのメールが大事」と思っている子もいるくらいで、学校から帰っても眠る直前まで携帯メールがとぎれない。特に女の子は「べたついた」関係を求めることが多いため、やり取りがとぎれず、どちらも「切りたくても切れない」状態になってしまうことがあるらしい。
こんなとき、相手からの携帯メールが納得できない事情でとぎれてしまうと、それが絶交の原因となることがある。元々べたべたしたつきあいだっただけに、その反動が大きいわけだ。しかも、自分も眠いのをがまんしてメールし続けてきたものだから、つい「私がこんなに頑張ってるのに、なによ!」という心情になってしまうらしい。
大人から見ればずいぶんばからしい話だが、思春期の心は実に微妙だ。やがて「あの子、カンジ悪い!」となり、周囲を巻き込んだいじめへとつながってしまうのである。
学校ではどんなインターネット
教育が行われているのか
こうした話を聞くと「学校ではどんなネット教育が行われているのか」が気になってくる。わが子やその友達から聞いた、学校でのインターネット教育事情を少しだけ紹介しておこう。
中学校では、Webサイトを閲覧して、社会や理科の授業に関係する画像を集めるといった、ごく簡単な「お遊び」をやっているらしい。
一方、高校では「情報」という教科名で、きちんと授業が用意されている。Googleを使った「and検索」や「-検索」もテスト問題に出たとか。実社会ですぐに使える…とまでは言わないが、なかなか実践的な教育である。ただ、この「情報」の授業でも、インターネットや携帯電話の暗黒面について深く学習したことはないという。ウイルスやスパイウェアなどについても、知識として教わった程度で、具体的な事例や被害についてはまったく無知だ。
子どもたちとネット被害…といえば「出会い系サイトの危険性」だけが短絡的に取り上げられる今、インターネットや携帯電話に対する、より効果的な教育を立ち上げる必要があるのではないだろうか。テレビや新聞、雑誌といったメディアとの正しい付き合い方を「メディアリテラシー」と呼ぶが、同様の「インターネットリテラシー」教育が求められているように思う。
NETWORKWORLD 2月号 掲載
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