ネット上での個人消費は
どうなっているのか?
現在、日本はバブル崩壊以来の好景気に沸いている――らしい。「らしい」と書いたのは、筆者のような庶民にはいまだその実感が乏しく、景気回復ということばも何やら実体のない飾り物のように感じられるからだ。
それはさておき、この景気回復が今後も持続するかどうかは「個人消費」の動向にかかっていると言われている。つまり、住宅や自家用車、旅行やレジャー、あるいは食料品や日用雑貨といったものが活発に売れるかどうかが、今後の日本の景気を左右するのだ。
さて、最近はネット上でもかなりの規模で「個人消費」が行われている。ご存じのとおり、ネットには数多くのショッピングサイトがある。Amazonや楽天といった百貨店(ショッピングモール)のほかにも、プロのための資材を提供する専門店、それに、非常にニッチな市場を狙った商品を扱うマニア向けショップもあり、もはやネットで購入できない商品はないと言っても過言ではない。
かく言う筆者自身も、ネットショッピングやオークションで買い物をする機会が多い。一例として、この2カ月ほどの間に筆者がネットで購入した商品を列記してみよう。
・フード型換気扇(75cm幅)
・大きなダイニングテーブル
・スチームオープンレンジ
・水道栓3種類
・タイルカーペット140枚とボンド
・シーリングファン型照明
・プリンタ1台
・カメラレンズ1本
・ストロボ1台
・クレマチス(花)4株
・掃除機2台
・ライティングデスク1台
・携帯ゲーム機2台とソフト数本
・書籍約30冊
・プロテイン4.5kg
・ソフトウェア数本
現在自宅をプチリフォームしている関係上、ものすごい量になってしまった。ちなみに、同じ時期にリアル店舗(ネットショップではない通常の店舗)で購入したものは、レンガ110個、野菜、ティッシュなど、かさばって送料が高くつきそうだったり、鮮度が必要だったりするものだけだった。つまり、特別にそうした事情がない商品は、ほとんどネットで購入しているということになる。
価格だけじゃない
ネット通販のメリット
ネット通販というと、一見格安だが、送料も加えると結局割高になるイメージがある。だが、少しくふうすればリアル店舗で購入するよりも安くつく。例えば、今回筆者が利用したショップは「1万円以上の購入で送料無料」だった。そこで、6,000円の掃除機を2台買うなどして送料を浮かせた(ショップ側の思惑どおりに操られている気がしないでもないが)。また、ネットオークションでは、「1円」や「10円」といった投げ売り状態の激安商品が見つかる。オークションの相場(過去の落札価格一覧)を検索できるサイトもあるので、テレビ通販が大好きな筆者の母親も、最近はまずネットでの価格をチェックするようになった。
24時間いつでも商品を注文することができ、自宅まで宅配してもらえるという利便性もメリットだ。今回筆者はタイルカーペットを140枚も購入したのだが、その総重量は100キロ以上になる。とてもリアル店舗で購入し、クルマに積んで持ち帰ることのできる量ではない。だが、今回はネットショップで購入したため、自宅の玄関先まで届けてもらえた。それでもなお、送料を含めてもリアル店舗の価格(1枚400円前後)よりずいぶん安く済んだ(1枚315円)。
品ぞろえの豊富さもネット通販のメリットだ。例えば今回、風呂場のタイルが幾つか割れているのを交換することにしたのだが、近所にあるホームセンター3店を回ってみても同じようなタイルは見つからなかった。一方、ネットで検索するとタイル専門ショップがあっさり見つかり、何種類かのサンプルを無料で送ってくれた。ネット通販の場合、現物の微妙な色味などが気になるところだが、こうしたきめ細かなサービスがあれば何の問題もない。最終的には、サンプルと現場(風呂場)のタイルの色とをよく見比べたうえで、十分満足の行く買い物ができた。クレマチスの花やプロテインも同様で、近所のリアル店舗で買うよりも豊富な種類から選べ、なおかつ超破格値で購入できたのである。
ネットショップ倒産騒動に見る
購買に必要な「スキル」
このように、ネットショップやネットオークションをうまく使いこなせば、よい品物が格安で手に入る。だが、そのためにはある程度のネットスキルが必要となる。目的の品物を販売するサイトを発見するスキルは当然だが、価格比較サイトやオークションの落札価格一覧サイトなどを駆使した価格調査のスキル、さらには送料や「おまけ」、アフターサービスなどのバランスも考慮するスキルが必要だ。
ただ、最後の最後にはさまざまなネットのうわさの中から“きな臭さ”を感じ取れる、何か「勘」のようなものが必要になってくるのかもしれない。
2月1日、PC本体やパーツ、家電製品などを販売していたネットショップ「PC-SUCCESS」の運営元、株式会社サクセスが倒産(自己破産)した。価格比較サイトでは常に他店と最安値を争っていた有名な激安ショップだったため、大騒ぎになるかと思われたのだが、どうやら「寝耳に水」だったのは一部のユーザーに限られたようだ。実は以前から、ネット掲示板などで倒産や買収のうわさがちらほらと語られ、「代金を振り込んでから商品発送までの時間が異常に長い」といった経験談も多く書き込まれていた。そのため、こうしたうわさを知るユーザーは、多少高くても他店で購入したり、代引きで購入したりするなどの自衛策を採っており、難を逃れることができたようだ。
リアル店舗とは異なり、ネットショップはその実体が見えない。ゴージャスなWebサイトを構えていても、実は三畳一間の小さなオフィスで運営されているのかもしれないのだ。表示が義務付けられているネットショップ運営者の情報を確認するのはもちろん、場合によっては掲示板やブログなどのうわさ話を分析し自己防衛することで、「実体が見えない」リスクを最小限度に抑えられる。
「実体が見えない」のは
ネット上の個人消費も同じ
話は「個人消費」に戻る。
ネットオークション上で個人間で行われた売買は、当然、前述した個人消費統計からは漏れるはずだ(もちろん税務署のほうは水も漏らさぬわけだが…)。だが、ネットオークションでは、自動車や貴金属からハンカチまで、実に幅広い商品が売買されるようになっている。これが統計に加えられていれば、実は個人消費は順調に拡大しており、オークションでの売買がリアル店舗の売り上げを圧迫していただけ、という結果になるかもしれない。
「実体が見えない」ネット上の個人消費は、今後も拡大していくだろう。そのとき、個人消費の計測システムが、町の商店街同様にぽっかりと空虚な穴が開いたシステムになってしまわないだろうか。
NETWORKWORLD5月号 (2007年3月17日発売)掲載
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