100万人突破目前!!
市民権を得たSNS
mixiに代表される「ソーシャルネットワークサービス」(SNS)は、友達が友達を呼ぶというシステムになっている。そのため、それこそ麻薬のように、ハマりだすとそれなしでは生活できないほどの常習性がある。
知らない方のために説明しておくと、SNSとは、参加者が互いに友人を紹介しあって交友を広げていくコミュニティサイトのことである。中でもmixiは、直感的でわかりやすいインタフェースや、「足あと」機能などのユニークなサービスで、ユーザー数を飛躍的に増大させてきた。あまりに常連たちの心を虜にしたため、一時は「mixi中毒」ということばが流行したほどだ。2004年9月にはID数が10万人の壁を超え、なんと2005年6月現在で80万人を超えてしまった。この調子でユーザーを獲得すれば、本誌発売時には100万人を超えている可能性がある。ほとんど驚異的とも言えるID数の伸び方だ。
ただし、この数字の信ぴょう性は疑ってかかる必要がある。mixi退会者のIDもそのまま残されているからだ。また、ほんとうは禁止されていることなのだが、個人で複数のIDを保持しているユーザーもいるようだ。
ではここで、mixi退会者の割合を知るためのおもしろいツールを紹介しよう。「mixiひょっとしたら便利かもしれないツール」(http://gorou.zapto.org/ruby/mixi/)である。「random friend」という表示をクリックするとウィンドウが開き、mixiのIDをランダムに表示してくれる。ここで、退会者にヒットすると「存在していません」という旨のメッセージが表示される。筆者も何度か試してみたが、大体10〜15回程度のクリックで退会者にヒットするようだ。ある程度の回数をこなせば、退会者の割合をもっと正確に判明させられるはずだが、おそらく1割程度ではないかと思われる。
それに基づくと、mixiユーザーの実数も70万人前後だろうと思われるわけだが、それにしても大きな数字であることに変わりはない。
蒸発、ストーカー…
mixi内で頻発する事件
筆者には、250人以上の「マイミク」さんがいる。マイミクとは、mixi内の友人のことだ。これだけのマイミクさんを持つと、mixi内で起こったトラブルや事件、事故の話なども聞こえてくる。
最も多いのは、マイミクさんが突然mixiからいなくなる「蒸発事件」だ。よくあるパターンなので事件とは言えないかもしれないが、電子メール、携帯電話ともに突然連絡が取れなくなるなるのは気持ちの悪いものだ。
また、正真正銘「事件」と呼ばれそうなものも数件あった。いちばん印象的だったのは、マイミクの女性が、遠隔地の女性にストーカーされていたという事件である。東京まで数時間かけてやってきて、マンションの前にずっとたたずんで、そしてまた帰っていくという、動機も目的もよくわからないストーカー事件だった。筆者は電話でも相談を受けていたのだが、若いお姉さんの声を頻繁に聞けて得をしたとひそかに思っている(笑)。ほかにも、悔し泣きしながら「あの人の書き込みがひどいわ」などと訴える電話を受けたり、ここで公にするのがはばかられるほど危険な事件に遭遇したりしたこともある。ともあれ、mixiが隆盛を極める一方で、mixi内の人間関係に疲れ果ててmixiを辞めていく人が多いのも事実のようである。
では、閉じられた環境下で営まれるmixi生活において、なぜにこうもトラブルが頻発するのだろう。mixiには、人を狂わせる魔物でも住んでいるのだろうか。
mixiに“ハマる”原因と
トラブル頻発の理由とは
mixi独特の人間関係のもつれ…どうやらその原因は、mixiのシステムそのものにあるようだ。
例えば、mixiのシステムでは、日記が更新されたりそれに対するコメントが付けられたりすると、即座にそれらの情報がマイミクたちに知らされるようになっている。また、冒頭に触れた「足あと」機能は、自分のページを訪れた人々の訪問時刻をきちんと表示してくれる。親密な交友関係を生むためのすぐれたシステムなのだが、それゆえに「仲間」と「そうでない者」との違いが明確になりやすい。「味方と敵」という言い方は適切ではないかもしれないが、それに近い感情が生まれやすいのである。
会社や学校など、現実社会の人間関係は、近年ますます希薄になりつつある。会社の同僚のプライベートなどは、よほど仲良くないかぎりタッチしないのが普通だ。ところがmixiで友達になってしまうと、前述のように見るともなくマイミクのページを見てしまうことになる。そしてそこで公開されている日記には、昨日はどこで飲んだ、新しいPCを買った、仕事でこんなことがあった…などなど、プライベートな内容がガンガン公開されている。せっかくmixiで友達になったのだから、コメントでも書いてみようか…という気持ちで交流が始まり、結果的に濃厚なお付き合いというスパイラルに組み込まれてしまう。
「mixi中毒」と言われるほどmixiにハマってしまう原因は、この手の「対人間関係濃縮プログラム」にあると筆者は推測している。
そして、そのように煮詰まった人間関係は、一歩まちがえば、たいへんこじれた関係に発展してしまうようだ。mixi内部でストーカーのように慕われてしまったり、妙に憎まれてしまったりするのは、このあたりに原因があると言えそうである。
事務局のほうも、mixi内のトラブルについては気にしているらしい。例えばmixiには「コミュニティ」と呼ばれるサークル的グループが存在するのだが、コミュニティの中には特定個人や団体を否定するという性格のものすらある。誹謗中傷合戦といえば言い過ぎだが、ほとんど同じようなコンセプトのコミュニティどうしが対立してけんかをしているという例もあって、なんとなく「骨肉の争い」という印象を受ける。
ちなみにコミュニティはだれでも簡単に作れるし、管理者が不要と感じればすぐに消去可能だ。不法なコミュニティについてはmixi事務局が削除を行う。最近では、個人のURLを無許可で引用したり、特定個人に対する否定的意見をコミュニティに書いたりすると、削除の対象となるようだ。個人攻撃禁止は当然の話なのだが、わざわざこのような宣言をしなければならないほど荒れているのだなぁ…としみじみ実感してしまう。
SNSは、本家米国ではもっとクールに、クレバーに使われているのではないだろうか。人間関係の広がりは大切だが、自分のほうがもっともっと大切だ…という、個人主義意識が根底にあるからだ。翻って日本ではどうなのだろうか。「ソーシャルネットワーク」と言うと響きはよいが、日本の場合は濃厚な「ムラ社会」の人間関係に回帰しているような気がしてならない。
NETWORKWORLD 9月号(2005年7月16日発売)掲載
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