既存製品の展示が目立った
Interop Las Vegas
Interop Las Vegasは、かつては巨大なラスベガスコンベンションセンターで開催されていたが、昨年からは近隣のホテルで開催されるようになり、最盛期に比べると規模の縮小はだれの目からも明らかである。これには、毎年2月にサンフランシスコ近郊で開催されているRSA Conferenceの規模拡大も影響しているようだ。同イベントに出展しているセキュリティ関連ベンダーの中には、Interopに出展していないところが多い。最近のネットワークソリューションはセキュリティ関連のものが多いので、ベンダーにとってはInteropのような総合展示会よりも、RSA Conferenceのようなよりセキュリティに焦点を絞った展示会のほうが出展メリットが大きいと考えているのかもしれない。
筆者はラスベガスと東京のInteropをそれぞれ視察してきたので、それらの傾向と今後のネットワークの動向について考察してみたい。
まず、ラスベガスのInteropだが、規模は昨年とほぼ同じだった。あいかわらず、シスコシステムズやジュニパーネットワークス、ファウンドリーネットワークス、エクストリーム ネットワークスといった大手ベンダーが巨大な展示ブースを構えていた。しかし、それらのブースでは目新しいソリューションはほとんど見当たらず、筆者の目には単に既存製品を展示しているに過ぎないと映った。「製品を組み合わせることによって、ユーザーのあらゆるニーズに答えることができますよ」とアピールするような展示になっていたと言ったほうがよいかもしれない。特にシスコは、同社ブースのかなりの部分をパートナー企業のために確保しており、各パートナーは何らかの形でシスコのソリューションを補完するような展示を行っていた。これは、マイクロソフトにおいても同様だった。
米国では、目新しい製品やソリューションは巨大ベンダーから生まれることはほとんどなく、必ずと言ってよいほど新興ベンチャーから生まれる。そして、そのソリューションがある程度市場に認知された段階で、大手ベンダーがその新興ベンチャーを買収し、自分たちのトータルソリューションに追加するというケースが多い。ITバブルの崩壊によりベンチャー企業の株式上場が困難になったことも、この動きに拍車をかける要因となっている。
もっとも、シスコがこの手法で巨大ベンダーに成長したことは周知の事実であり、最近はジュニパー、シトリックス・システムズ、シマンテックといったベンダーも同じ手法でさまざまな分野の企業を買収し、総合ベンダーへと成長してきた。そのため、これらのベンダーのブースでは、個々の最新ソリューションの展示よりも、コンセプト的な内容や、トータルインテグレーションが中心となっていた。また、F5ネットワークスのように、展示会場内にブースを設けず、ホテル内に商談スペースのみを確保しているところもあった。コンピュータの世界も同様だが、トータルソリューションを扱うようになったベンダーは、最新のソリューションを提供するビジネスよりも、インテグレーションを中心としたビジネスへ向かうものだ。
米国は国土が広大でユーザーが分散しているため、多数の来場者が集まる展示会は、出展社にとって重要な商談の場という位置づけになっている。筆者は巨大ベンダーのブースよりも、1コマしかないような小さなブースに足を運んで積極的に説明員に話しかけ、展示している製品は何か、どのようなものか、なぜそのようなものを製品化したのかといったことを聞くことにしている。そのほうが、はるかに今後の動向を占うための参考になるからだ。特に小さいブースの場合には、その会社の創設者やCTO(技術統括役員)がみずから説明員として立っていることが多く、彼らの話は非常に興味深い。
今年の目玉はアクセラレーションとセキュリティ
ラスベガスのInteropで最も目立っていたのは、アクセラレーション系とセキュリティ系の製品やソリューションだったように感じた。もちろん10ギガビットEthernetスイッチのような製品も提示されていたが、決して主役ではなかった。
アクセラレーション系のソリューションは、大きく2つに分けられる。1つ目は、データセンターのようなセンター側に設置し、サーバ上で稼働しているアプリケーションをいかに高速化するかに焦点を絞ったソリューションであり、もう1つは、センター側と拠点側にそれぞれ設置して、WAN通信を高速化することに主眼を置いたソリューションである。両方ともエンドユーザーへのレスポンスとスループットを高速化することを目的としている点では同じだが、前者には、サーバの負荷を低減することにより、センター側の設備投資を抑えるという目的も含まれている。
ラスベガスのInteropにおいて、最もすぐれた出展製品に与えられる「Best of Int erop」を獲得したのも、センター側でのアクセラレーションソリューションだった。このソリューションは、サーバ負荷分散やSSLアクセラレーション、HTTPアグリゲーションによるサーバ負荷の低減に加え、アプリケーションごとのレスポンスタイムを測定する。そして、レスポンスが悪いアプリケーションへのアクセスをキューイングし、レスポンスがよいアプリケーションへのアクセスを優先することで、全体のスループットを向上させるという仕組みになっている。また、アプリケーションレスポンスに応じた負荷分散ロジックも搭載している。アプリケーションという単位を単純なページ単位で識別するのではなく、そのWebページにどのようなデータが入力され、その結果どのくらいのレスポンスタイムになったということまで含めて識別するのだ。
このソリューションにより、データセンターにおける3階層モデル、すなわちフロントのWebサーバ、2番目のアプリケーションサーバ、そして3番目のデータベースサーバの中で、2番目と3番目のアプリケーションサーバやデータベースサーバの負荷を分散させることが可能となる。これまでのアクセラレーションソリューションは、ほとんどがフロントのWebサーバのみを対象としていたが、これまでのソリューションの壁を越えるということで、今回の受賞となったようだ。確かにレスポンスが急に悪くなった場合、その原因はアプリケーションサーバやデータベースサーバへの負荷集中であることが多い。
WAN高速化機器の位置づけは
日米で異なっている
米国は、日本に比べてWANの帯域が細い。日本ではもはや128KbpsのWANサービスはほとんど利用されていないが、米国では現在でも健在だ。そのためWAN高速化機器は、細い帯域でもスループットやレスポンスを高め、アプリケーションを快適に使うためのソリューションと位置づけられている。このため、業務の生産性向上やTCO削減がセールスポイントとなっている。
一方、すでに広帯域なインフラが普及している日本では、広帯域であるがゆえに、ネットワーク遅延の影響が顕著に出始めている。東京−大阪間の往復遅延は20ミリ〜30ミリ秒程度だが、100Mbpsの回線を使用した場合でも、CIFSのようなLAN向けに開発されたプロトコルでは、スループットは数Mbps程度にしかならない。このため、LANでは数秒でオープンできるファイルでも、同じ100Mbpsの帯域であるはずのWANを経由した場合には、オープンするのに数十秒もかかってしまうのだ。
日本では、セキュリティ上の理由によりサーバをすべてセンター側に集約し、各拠点には一切データを配置しないという構成に変更する企業が多い。しかし、この遅延という問題を考慮していないことが多く、構成を変更してから問題に直面するケースが多いようだ。このため日本では、WAN高速化機器はセキュリティ対策の延長線上にあると位置づけられており、サーバやデータをセンター拠点に集約するために不可欠なソリューションであるとアピールされている。
これまでは、米国で普及したソリューションはほぼ同じ理由で日本でも普及してきたが、日本のほうが広帯域なインフラが張り巡らされた今となっては、同じソリューションでも顧客ニーズやベンダー側のアピール方法が異なるようになった。この兆候は、今後も続く可能性が高いと予想される。
筆者としては、日本ならではのソリューションが日本から生まれることを期待している。そうなるためには、ネットワークの広帯域化だけでなく、そのほかの分野でも米国より先に進むか、異なる進化を遂げる必要があるのかもしれない。だが、今回の日米のInteropを見て、セキュリティ分野の製品やソリューションは、米国をはじめとした諸外国で開発されたものがそのまま日本に持ち込まれている傾向が強いと感じた。もっとも、東京のInteropでは、開発元のメーカーがみずから展示を行うのではなく、それを輸入販売している商社や販社が行っているため、しかたがないのかもしれない。
(NETWORKWORLD 2006年9月号掲載)
一丸智司 著者プロフィール
|
大手ネットワーク機器商社のストラテジックマーケティング室長。エンドユーザーへのネットワークコンサルティングとSIベンダーに対するマーケティングサポートで豊富な実績がある。通信・ネットワーク業界の事情通として知られている。
|
|
|
|